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日本の夏は、年々暑くなってきているような気がしますね。夏のこの時期は、子供たちの夏休みの時期ですが、実は動物園ではお客様が少なくなる時期。動物たちも暑さでぐったりしていることが多いものですが、夕方になってくると、動物たちも活動的になってきます。特に、トラやライオンといったネコの仲間などは、昼に比べるとかなり活発な動きを見せます。 近年、全国各地の動物園では、夏季に期間限定で夜間開園を行うところが増えてきました。夕涼みがてら動物園を訪れることができるこの企画は、多くの動物園で人気を博しているプログラムですが、近畿地方の公立動物園では実施例が少なかったようです。 夜の動物園といえば、シンガポールのナイトサファリが有名です。薄暗い園内にうごめく動物たちを観察することができ、観光地としても人気があります。実は、ここは夜専門の動物園。ナイトサファリの隣には、お昼に開いている動物園があります。一年を通じて気温の高いシンガポールだからこそできる見せ方。日本で実施する場合には、夏季に限定的に実施することとなります。 さて、今年(2015(平成27年))、天王寺動物園でも夏の夜間開園「ナイトZOO」を開催したわけですが、実は当園での夜間開園には前史があります。天王寺動物園の100年の歴史をさかのぼると、開園翌年の1916(大正5)年から昭和10年代にかけて、春の桜の時期の約2週間に夜桜開園、夏には7月から8月にかけての約40日間に納涼夜間開園を実施していたそうです。しかしその開園時間は、なんと夜の10時半。かなり人気があったようですが、「大阪市天王寺動物園70年史」によれば、「酔客の徘徊(はいかい)やアベックの追い出しなど夜間開園中は毎日がトラブルの連続で、また動物も夜遅くまで展示されるため健康を損ねるなどの不都合も多く、やがて中止となった」とあります。その後、戦後になってからは本格的な夜間開園は行ってきませんでした。
昔の納涼夜間開園時の風景
夜間開園で必要なものはまずは照明です。照明の設置にはお金がかかります。大阪市の財政も厳しく、予算の確保に汲々としていた当園で、新たな予算を獲得するのは至難の業。しかし、これがなくては始まりません。市の中で照明整備の予算要求を行い、市長の後押しもあって、予算を確保することができました。次に照明の設置ですが、これもなかなか難しいもので、お客様が歩く園路は、安全面だけを考えれば、明るいに越したことがないのですが、一方で、あまりに明るすぎるとナイトZOOの雰囲気(ふんいき)が出ません。さじ加減が難しいところです。動物の側を照らす照明については明るさだけでなくナイトらしさを出すことも重要ですし、もちろん、当然のこととして動物たち自身のことを考えてあげなくてはなりません。試行錯誤の連続です。 動物園で飼育している動物の中には、夜が得意でない動物もいます。そのため鳥の楽園などの一部エリアは夜間開園の実施中は閉鎖することとしました。どのエリアをどのように閉鎖するかも、一つ一つ考えていかねばなりません。また、一般公開に先立って、動物たちにナイトの環境に慣れさせるように練習期間を設けるなどもしました。
ナイトZOOのポスター
たくさんのお客様にお越しいただくためには、プロモーションも重要です。なんとも素敵なポスターができあがりましたし、物珍しさもあってか多くのメディアにも取り上げられ記事やニュースにしていただくことができました。変わったプロモーションとしては、プロ野球のオリックス・バファローズにご協力をいただき、京セラドーム内でナイトZOOの宣伝をさせていただいたこともあります。このときは、球場のコンコース内にミミナガヤギやは虫類などを連れていって、ミニ動物園を出現させました。
京セラドームでのキャンペーン
さて、8月8日から16日の9日間の実施期間のうち、最初の6日間は20時まで、最後の3日間は21時までの開園をとし、この期間中、約13万人(日中の入園者数を含む)のお客様にお越しいただくことができ、また同時期に開催していた「戦時中の動物園展」にも期間中たくさんのお客様にお越しいただきました。正直なところ予想以上の混雑となりチケットを買い求めるお客様の大行列ができたり、園路で渋滞が生じてしまったりして、対応に追われる怒涛(どとう)の日々でした。もっとも動物たちも連日の残業で、後半には少し疲れを見せていた動物もいました。当園のスタッフにとっては初めての取り組みでしたし、たくさんの反省点があります。
ナイトZOOのライオン
(牧 慎一郎)
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