天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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チュウゴクオオカミの治療から学んだこと

 天王寺動物園には現在、8頭のチュウゴクオオカミが暮らしています。8頭は兄弟姉妹ですが、性格はそれぞれ違いますし、顔つきもお父さんのチュンサンに似ている個体もいれば、お母さんのユジンそっくりな個体もいます。今回はそんなオオカミファミリーのうちの1頭、楽楽(ララ)について処置を行ったので、そのときのお話をしたいと思います。

 楽楽は2009年3月29日に天王寺動物園で生まれました。とても人懐こい性格で、なでてーといわんばかりに柵越しに背中をすり寄せてきたり、私たちが何か(ヘルメットでも噴射瓶でもなんでも)持っていると、おもちゃと思っているのかワクワクした様子で近寄ってきたりします。しかし、この遊んでモード、あまり長続きしないこともあれば、気分が向かないときは遠くから見つめるだけでびくともしないので、そういうときは少し寂しい気持ちになります。

 今回、私たちが楽楽の治療を行ったのは、お腹の膨らみが気になりだし、同時にお尻にできた腫瘤(しゅりゅう)が徐々に大きくなっていたためです。妊娠していないのにお腹が膨らむ理由は、腹水や内分泌系、生殖器系の病気、肥満等いくつか考えられるのですが、原因を特定するには血液検査やエコー検査を実施する必要があります。お尻の腫瘤(しゅりゅう)についても、腫瘍性なのか、炎症性なのか、はたまたそれ以外なのかによって処置が変わってくるので、こちらも精査する必要がありました。そこで楽楽に麻酔銃を用いて麻酔をかけ、腹部と腫瘤(しゅりゅう)の検査を行いました。結果は腹部については異常が認められず、腫瘤(しゅりゅう)についてはヘルニアが疑われたため、後日大阪府立大学のご協力のもと再度麻酔をかけ、検査および手術を実施しました。詳しい処置の経過と内容は天王寺動物園のスタッフブログにも掲載されていますのでぜひご覧ください。

楽楽の手術

楽楽の手術

 術後、楽楽は動物病院に一泊したのですが、ここでの出来事が私にとって新たな気づきとなったのです。動物たちの中には麻酔や注射など自分にとって嫌な出来事があった後は、近づくと唸(うな)って威嚇してきたり、怯(おび)えて震えていたり、一目散に逃げたりする動物がいます。楽楽もきっとそうだろうと思って翌朝私が様子を見に行くと、大人しく座っていて、落ち着いた様子でした。同僚の獣医師が注射器でお水を飲ませてあげると、なんの疑いもせず、素直にガブガブ飲んでいる姿がなんとも可愛らしく、オオカミであることを一瞬忘れてしまいそうでした。さらに驚いたのは、術後の注射です。私はいくら人懐っこい楽楽でも麻酔処置後であるし、注射なんて無麻酔下では無理なのではと思っていたのですが、別の獣医師がささっと注射を打ち、それに全く動じてない楽楽に驚愕(きょうがく)してしまいました。術後は術創を気にして舐(な)めたり噛(か)んだりして、傷口が開くというトラブルも多くあるのですが、楽楽の場合はそのようなこともなく順調に回復していきました。

注射器から水を飲む楽楽

注射器から水を飲む楽楽

 私自身、治療が必要な飼育動物を目の当たりにしたとき、ついつい動物の種差だけを考え、治療方針や投薬内容を決定しがちでしたが、今回の楽楽の治療から、改めて動物の種差だけでなく、個性(個体差)の違いも念頭にいれて治療にあたる必要性を実感しました。
楽楽、大切なことを気づかせてくれて、教えてくれてありがとう。治療お疲れさまでした。

(巴里 藍)

 

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