天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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学習・休憩棟がオープンします。

 天王寺動物園の社会教育機能の向上を目的とした施設「学習・休憩棟」がいよいよ今年の3月にオープンします。建物の完成は新型コロナ感染症の影響で数カ月遅れ昨年の10月中旬の完成となりましたが、その後に施設内部の内装工事を行ったり、机やイスなどの事務用品などをそろえたりするため、オープンまで5カ月ほど必要となります。当園をご存じの方は、すでにレクチャールームという教育施設があるのに、なぜ新しい学習棟が必要なの?と思われる方もおられるかもしれませんが、動物園の4つの使命の中に、「環境教育」という役割があります。

 なぜ環境教育を動物園で行う必要があるのかを簡単に説明しますと、いま世界中に生息する動物や植物のうち約35,500種、当園で飼育している約180種の動物のうちの35種が絶滅の危機にあるといわれ、過去50年間で野生生物の生息数が約68%減少したとの報告もあります。これらはヒトの生活に伴って排出されるCO₂ガスによる地球温暖化や動物の生息地の破壊による生息場所の減少、ツノや毛皮を目的とした密猟など、我々の暮らしを豊かにするために多くの生物を絶滅の危機に追いやっているといっても過言ではありません。しかしながら日常生活を送っているうえでは、多くの動物が日々絶滅の危機にさらされているとは全く感じないと思います。

 そこで、動物園に来て野生動物を見られている方々に野生動物の現状を知っていただくために、当園ではこれまでもズー・スクールという形で環境教育を行い、野生生物や生物多様性の保全の重要性について学んでいただいています。しかし残念ながら、現在当園には教室が1つしかなく、同時に二つ以上のスクールができなかったり、企画展や会議などで教室を使っているためスクールのご依頼をお断りせざるを得ないということがあったため、新たに学習棟を建設し教育普及事業に力をいれることとしました。一方、当園には剥製や骨格標本が、戦前に作られた分も含めて260点ほどあるのですが、そのほとんどは皆さんに見ていただける機会もなかったことから、学習棟には常設で標本を展示できる部屋や、生物多様性を学べるワークショップもできるような実験室も作りました。

 前置きが長くなってしまいましたが、それぞれの部屋を簡単にご案内させていただきます。

【標本展示コーナー、キッズライブラリー】

標本展示コーナー 

標本展示コーナー 学習棟のコンセプト
資料提供:㈱ムラヤマ

学習棟のコンセプト 資料提供:㈱ムラヤマ

白雪姫時計台に面したガラス張りの部屋で、時計台側から見た時には当園で飼育されていたアジアゾウのユリ子の立体模型が見え、エントランスまでのガラス部分にそれぞれの地域に生息する動物のイラストを貼ることで新たなフォトスポットとなったり、動物のイラストに興味をもっていただいたりして入館していただけるようなきっかけ作りをしています。
標本展示コーナーではユリ子の骨格標本と半身のレプリカの展示が一番の売りとなり、コーナー内では歴代飼育されていたゾウの解説パネルや、絶滅の危機にある動物たちの剥製展示や解説で、生物多様性について学んでいただけるような企画となります。また、隣接するキッズライブラリーでは、小さなお子さん同士や保護者の方と対話ができるようなしつらえとし、自然と野生動物に興味を持っていただけるような空間を演出する予定です。両コーナーでの展示物や空間装飾については、コンペ形式で数社から提案を受け、もっとも優れた提案のあった㈱ムラヤマ様のプランで現在展示物の準備を進めています。

【標本展示・保管庫】

標本展示・保管庫

標本展示・保管庫

標本展示コーナーとキッズライブラリーに続く廊下沿いにある標本展示・保管庫では「見せる収蔵庫」というコンセプトで、レクチャールーム内で保管されていた、戦時中に処分された猛獣の貴重な剥製を含めた標本や、国内に1体しかないスマトラサイの剥製など、いままでお見せできなかった標本の一部を廊下に面したガラス張りの展示室で見ていただくことができるようになります。また、この保管庫は空調と湿度がコントロールできるため、いままでより各段に標本の保存環境が良くなりました。

【多目的ホール】

多目的ホール

多目的ホール

標本展示・保管庫の向かい側にある、学習棟のメイン施設となります。現在あるレクチャールームの収容人数は、机とイスを置いたスクール形式で72名、イスだけのシアター形式で100名ですが、このホールはシアター形式で168名、スクール形式で240名が収容でき、部屋の間仕切りをすることで2つのスクールの同時開催や、企画展中もスクールが可能となるなど教育普及プログラムを効率よく進めることができるようになります。なお、多目的ホールの机やイスなどのオフィス家具は大阪信用金庫様からご寄付をいただき、「だいしんワクワクホール」という愛称を付けていただきました。

【多目的室】

標本展示・保管庫に隣接する小部屋で、スクール形式で12名収容と少人数のスクールやイベントの打合せ等での利用を目的とした部屋です。

【実験室・作業室】

実験室・作業室

実験室・作業室

多目的室に隣接する部屋で、スクール形式で42名を収容できます。スクールでの使用はもちろんのこと、窓側に給湯設備のあるシンクを設置しているため、生物多様性について楽しみながら学んでいただけるようなワークショップや体験講座などでの利用を予定しています。 また、学習棟と白雪姫時計台を挟んだ反対側(新世界ゲート側)には休憩棟があり、フードコートとおみやげコーナーを設置します。

学習・休憩棟のオープンまでまだ1カ月少々ありますが、皆さまにご覧いただける日を楽しみにしています。

(今西 隆和)

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