天王寺動物園「なきごえ」WEB版

バックナンバー

動物園を利用した教育について〜教育・学習棟の完成に寄せて〜

 「地域の図書館や博物館、美術館、劇場、音楽堂等の施設の活用を積極的に図り、資料を活用した情報の収集や鑑賞等の学習活動を充実すること」が、小・中高等学校すべての学習指導要領(現行)に明記されています。わたしは2011年4月に大阪府教育センターの理科教育研究室(当時)に赴任し、2018年3月末に退職するまで、大阪府内の小中高等学校の先生たちを募って、理科や総合的な学習の時間と関係づけて動物園で学習する計画を構想・協議・立案する研修を、天王寺動物園の協力を得て実施してまいりました。

 わたしは児童・生徒たちが「身の回りの生き物が何を食べ、何に食われ、どこに棲み、どのように他の生き物と関わっているか?」について思いを馳せ、生き物の立場で自然を見ることができるようになってほしい。たくさんの動物たちと出会って好きになり、はるばる日本へやってきた動物たちの故郷でのくらしに思いを馳せるようになってほしいと、願ってきました。そしてその願いは、児童・生徒たちが世界を広く旅して、野生の動物たちと出会うことによってかなえられますが、わたしは国内の主要な都市にある動物園でも学ぶことによっても可能になるはずだと考えていました。

 そこでまず児童・生徒たちに動物園で学んでもらうには、引率する先生たちに動物園の魅力と教育力を知ってもらうことが必要であり、そのためには先生たちを対象にした研修を開催しようと、天王寺動物園に協力を依頼しました。動物園に来ていただいた先生たちは、動物園の充実したプレゼンテーション資料を見ながら、獣医師さんから講演をうけ、動物園オリジナルの貸し出し教材を手にとってもらいました。ライオンとシマウマの頭骨、ゾウ、シマウマ、コアラなどの糞、動物たちが食べる餌に触れ、ただ園内を歩いて動物たちをながめることしか知らなかった先生たちの目がみるみる輝いていきました。

 

写真1

レクチャールームでの獣医師による講義の様子、そもそも動物園にはどんな役割りがあるのかを学びます。学校向けの貸出教材が前方の机上に並べられています、こんな教材があるのか!先生たちにとっては宝物の山の発見でした。

 また一方では動物園で飼育されている動物たちの多くが、絶滅の危機にさらされていること、「象牙」を取るために人がゾウを殺していること、漢方薬として薬効があると信じられている「角」をとるために人がサイを殺していること・・・そんな悲しい事実も学びます。ホッキョクグマのゴーゴくんのなかまが地球温暖化で氷が少なくなった北極海で、餌のアザラシを取ることができなくて危機に瀕していることも学びます。獣医師さんの案内で園内を回ってみますと、サイは体が大きいけれどとてもシャイなこと、エランドやキリンを近くで見ると、圧倒されるほど美しいことに先生たちは気づいてくださいます。

写真2

獣医師によるお話しを聞きながら園内を歩くと、先生たちは漠然と動物たちをながめながら歩くときには知ることができなかった見方で動物たちを見ることができるようになりました。獣医師さんと先生たちが出会う場があることはとても大切です。

 小学校では、低学年の遠足で動物園を訪ねることが慣例になっていますが、食べる・食べられる関係や、動物のからだのつくりを学ぶことや、高学年の学習活動として動物園への引率は何であるのかを、検討したことのある先生はあまりいらっしゃいませんでした。このためどうすれば動物園と理科や総合的な学習(探究)をうまくつなぐことができるのか?これについて、参加された先生たちで小中高等学校の枠を越えて、経験と知恵を出しあってもらい、実現可能な方法を見つけてもらうようにお願いしました。

写真3

動物園と理科や総合的な学習の勉強をうまくつなぐことができるのか?この難しい課題に取り組んでいる先生たち。小中高等学校という枠組みを越えて協議がされていきます。このグループではイメージマップを描きながら、協議していることがわかります。

 2014年には、天王寺動物園で開催された日本動物園水族館協会動物園・教育事業参加型研修会に講師としてお招きいただいた際に、動物園の教育・普及を担当される皆さんに向けて、学校教育へ手を差し伸べていただけないかとお願いしました。例えば(当時の)小学校学習指導要領には、特別活動・総合的な学習の時間・教科「生活」・「理科」の項目で、博物館等の社会教育施設(動物園はここに含まれる)との連携を行うとの記述があるのですが遠足やその下見で来園する先生たちに、各動物園が学習指導要領に配慮したオリジナル教材や資料を提供すれば、先生たちが総合的な学習の時間や理科学習を組みなおして、児童生徒が感動する教育活動を実現できる可能性があるとお話しました。

 さらには2015年の「都道府県指定都市教育センター所長協議会生物分科会」つまり、各都道府県で生物分野の教員研修を担当する指導主事の研究発表会で、天王寺動物園で開催した研修を核とした研修の成果を以下のように報告しました。大阪府教育センターにおいては動物園・水族館・博物館等での教員研修を毎年開催し、教育・普及担当のスタッフの方々に依頼して展示解説・案内を実施し、併せて学校向けの教育プログラムや貸出教材等を紹介していただいております。参加した先生たちは動物園・水族館・博物館が、多様な学習活動が可能な教育施設であることに気づき、勤務校での実現を見据えた計画を構想して研修を終えました。

 そして他方、わたしは2018年には、天王寺動物園教育ポリシーに関するアドバイザー会議委員の一人として、「天王寺動物園敎育ポリシー」策定に参加する機会を得ました。冒頭に書かれた 目標〜めざすべき姿〜は高らかにその目標を掲げています。

天王寺動物園教育ポリシー

 2020年現在、わたしは高等学校に勤務しながら、希望者を募って天王寺動物園で実習を開催しています。勤務校は現在では数少なくなった女子校です。生徒たちは動物が好きで、獣医師さんのお話しと動物たちとの出会いを心から楽しんでくれます。実習のしめくくりには、「これから私たちがやっていけること」を協議し、iPadでプレゼンテーションにまとめて獣医師さんに聞いていただきました。彼女たちの進学に際して、推薦書には、「天王寺動物園での実習に参加し獣医師から講義を受けた。動物たちと出会い、地球のすべての生命を大切にする看護師になることを心に誓った」と記載しました。

写真4

動物園と理科や総合的な学習の勉強をうまくつなぐことができるのか?この難しい課題に取り組んでいる先生たち。小中高等学校という枠組みを越えて協議がされていきます。このグループではイメージマップを描きながら、協議していることがわかります。

 教員は生徒たちのあるべき姿(教育の目標)を具体化し、その目的を達成する手段として適切な教育プログラムを動物園と協働しながら構想・実現すればいいはずです。動物園での教育活動は、生徒たちの学ぶ意欲を育成し、生命の尊厳について感じ・考えるきっかけをもたらしてくれます。これからも、完成した学習棟を新たな拠点として、動物園での教育活動を構想して実現してゆくことできればと考えております。今後ともどうぞよろしくお願いいたします。

(ひろせ ゆうじ)

ページの上部へ