天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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【獣医室から】陰ながら支えていました

青草を食べるラニー博子

青草を食べるラニー博子

 ゾウ担当になってもうすぐ丸2年が経とうとしています。ラニー博子(以下 博子)との距離が日々近づき、出来る仕事も少しずつ増えてますが、私はまだまだゾウ担当修行中です。そして先輩飼育員とのレベルの違いを痛感させられる日々でもあります。「2年も担当すれば、もう1人で何でも出来るでしょう?」と思う方もいるかもしれません。しかし、ゾウの直接飼育はそんなに簡単ではありません。

 朝と昼のおやつタイムに青草を与えますが、私は今までは放飼場の隅っこで、何が起きてもいつでも逃げることができる安全な位置で、先輩が与えるのをじっと見つめているだけでした。そして最近ではようやく青草を持って放飼場へ入る段階にまできました。

青草を与えるラニー博子

青草を与える筆者

 写真のように青草を与え、体にも触らせてもらえるようにまでなり、これだけ見ると「出来てるやん!」・・・ いえいえ、この写真のフレーム外では西村主任が睨(にら)みをきかせているのです。とはいえ、博子と私との間に何もない状態は本当に緊張します。なぜここまで緊張するのかというと、これまでにいろんなことを見てきているからだと思います。例えば、おやつタイムの時に与えた餌を博子が食べ始めると、体を触りに行きます。これは健康チェックやコミュニケーションをとるためにいつも行っていることで、私も触る練習が始まりました。博子もなんとか触らせてくれています。そんなある日、先輩と一緒に放飼場に入り、ソルゴー(夏季限定で青草の代わりの植物)を食べている博子の左前足あたりを先輩が触った後、同じよう触ろうと近づいて手を伸ばしたとたんソルゴに集中していた博子がぐるっと左旋回し始めて振り返り、怖い目つきでこっちを睨(にら)んできました。「なんでお前も触るねん!?お前はあかん!」と言うかのように。そして私はその場で固まってしまい、次にどうすればいいのか判断できないという情けない状態です。この状況で前へ出るのか、下がるのかは最終的には私自身の判断で決めなければなりません。どうしたらいいのか先輩の指示を待っていてはいつまでたっても独り立ちはできません。結局そのまま私は体に触ることが出来ず、放飼場の外へ出て行きました。当然ながら博子が私に触られることを拒否したということに対して落ち込んでいました。こういう出来事があった時は後で先輩に必ずアドバイスをもらいます。その時先輩は「今はちょうど季節の変わり目で青草のソルゴの質が少し悪くなってきているから、あまり餌に集中してないな。河合があかんとかちゃうで。」この言葉で少し安心しましたが、博子自身が先輩と私を完全に区別していることを肌で感じた瞬間でした。そして今与えている餌の質や与える場所、それに対する博子の表情や行動の変化など、いろんな角度から見て状況判断することが重要だと教わりました。単純に見えて実は奥が深かったんです。先輩たちは毎日これが当たり前のように出来ているんだなとあらためて実感しました。

青草を食べるラニー博子

博子の体を触る筆者

 今まで先輩2人が青草を与える場面をたくさん見てきたにもかかわらず、いざ自分がやってみると全然できません。集中して見ていたつもりですが、やはり経験して見えてくることの多さに、今更ながら驚いています。そして今、博子は背中をブラッシングさせてくれたり、私が出す号令にも従ってくれています。今後もっと距離を縮めてよりよい関係を築けるように努力の日々が連日待っています。


(河合 芳寛)

 

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