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南港野鳥園の春 -渡り鳥との出会い-

1983年9月17日開園した南港野鳥園(以下、野鳥園)は、今年の9月に34周年を迎えます。野鳥園の春をじっくりと楽しんでもらうため、その環境や春に訪れる渡り鳥のことを紹介します。

(南港野鳥園ホームページ:http://www.osaka-nankou-bird-sanctuary.com/

野鳥園の環境

 野鳥園は湿地干潟を含む)とその周りのからなり、野鳥や多くの生きものが生活しやすいように配慮されています。湿地干潟ヨシ原からなっています。湿地にある三つの池は、大阪湾から海水が出入りするようにつくられ、干潮になると干潟ができるようになっています。この干潟は、渡り鳥の中でもとても長い距離を渡るシギ・チドリ類(鳥仲間では親しみをこめてシギチといいます)の中継地を確保する目的でつくられ、開園してから様々な手入れや改善をしてきました。その結果、干潟にはシギチ、サギ類、カモ類などの水鳥の餌となる生きものを含め200種あまり(ゴカイ類、カニ類、ヨコエビ類、貝類、藻類など)が生活し、干潟を支えています。一方、池のまわりの林は、防風のためのクロマツ林や90種もの樹木(昆虫が好む木、実のなる木、蜜が豊富な花が咲く木など)が植えられ、小鳥類の餌となる昆虫、チョウやガの幼虫、木の実、花の蜜、ミミズなどが豊富です。また、夏の夜に干潟で放仔(ほうし:お腹にかかえた卵が割れて幼生を海に放つ)する陸ガニ(アカテガニなど)も林床で生活をしています。小鳥類や陸ガニの生活をまもるため殺虫剤は散布せず、野鳥のねぐらや夜行性の生きものの生活をまもるため、夜は街灯をつけていません。

 

どんな野鳥がいるのでしょうか

 このように生きものに配慮をされた環境があるので、野鳥は四季を通してたくさん生活できるようになりました。これまでに観察した野鳥は253 種です。湿地を利用する水鳥(シギチ52種、カモ類21種、サギ類14種など133種)が約50%で、それ以外は、林を利用する小鳥類(約100種)や林も湿地も利用するワシ・タカ類(20種)などです。四季を通して来ていただければ、毎年150種くらいの野鳥と出会えるでしょう。

 

 春の渡り鳥を紹介します

 春になると、越冬地から繁殖地にむかって北へ北へと渡っていく渡り鳥が野鳥園に立ち寄ります。そんな渡り鳥と出会える春の楽しみが二つあります。一つは、森や高原へと渡っていく小鳥のさえずりを聞くこと、もう一つは、長旅の途中のシギチの仲間に出会えることです。これらの渡り鳥たちとの出会いは、春の彼岸の頃(春分の日の頃)にはじまり、園内のオオシマザクラが咲く4月から新緑の5月中旬をピークに、5月末まで続きます。種類によって渡ってくる時期も違いますが、小鳥類は早朝のよくさえずる時間帯に、シギチは潮が引き始める2時間前には来られることをすすめます。

 

春の干潟

 3月末、干潟には「ピォピォピォピピピ」と大きな声で鳴きながら飛ぶコチドリの声に混じって、ツツツと走ってはとまって餌をとるシロチドリが渡ってきて春を告げます。4月になると、ハマシギの群れが渡来し、汀線(ていせん)沿いに並んで嘴を差し込んでせわしく餌をとっています。嘴が長く下に曲がった大型シギのホウロクシギも毎年やってきて好物のカニを探し歩いています。

ホウロクシギ(手前)とダイシャクシギ(奥)

ホウロクシギ(手前)とダイシャクシギ(奥)
くちばしが長い大型シギ。野鳥園にはホウロクシギは春先と秋によくや ってきますが、ダイシャクシギは珍しいです。写真のようにくちばしを 突っ込んで見事にカニを探しあてては食べ歩きます。

 3月末、干潟には「ピォピォピォピピピ」と大きな声で鳴きながら飛ぶコチドリの声に混じって、ツツツと走ってはとまって餌をとるシロチドリが渡ってきて春を告げます。4月になると、ハマシギの群れが渡来し、汀線(ていせん)沿いに並んで嘴を差し込んでせわしく餌をとっています。嘴が長く下に曲がった大型シギのホウロクシギも毎年やってきて好物のカニを探し歩いています。

 

 4月下旬、同じようにカニが好物で嘴が下に曲がった中型シギのチュウシャクシギが渡ってきて、マガキの山や岩のすきまに嘴をつっこんでカニを取り出して食べています。飛び立つときの「ホイー、ピピピピピ」という声で居場所がすぐにわかります。メダイチドリは、干潟の上を歩きながらゴカイの巣穴を見つけると、ゴカイを切らずに見事に引っ張り出して食べています。同じようにゴカイが大好物のオオソリハシシギは、池の中で頭まで突っ込んで長い嘴をグイグイ差し込んではゴカイを引っ張り出して食べます。5月になると、オーストラリアから繁殖地のシベリアに向かって渡っていくトウネンの群れがやってきて5月中旬にはピークとなります。

トウネン

トウネン
野鳥園で最も多くみられるシギです。写真は満潮で休息中なのでしょう。 足にプラスチックの標識を付けた個体が野鳥園では多く見られています。とくに、オーストラリアで標識されたトウネンが多いです。

 

 トウネンはスズメ位の小さな体で12000キロもの渡りをするすごい鳥で、ヨーロッパではとても珍しいのですが、日本では小型シギ類の「ものさし」となる普通種です。トウネンは短い嘴で干潟表層の海藻の中にいるヨコエビ類など小さな生きものを食べたり、干潟表面のヌルヌルしたバイオフィルム(微生物やそれらが放出した粘液を含む薄い層)を舌先にあるブラシのような毛を使って泥と一緒に食べます。5月中旬から下旬には、アオアシシギ、アカアシシギ、キアシシギといった少し足の長いシギ類も増え、満潮時に園内の休み場に並んで潮が引くのを待っています。また、ずんぐりした体型で、貝類が好きなオバシギや茶色と黒のまだら模様のキョウジョシギもやってきます。

 シギチは、肉眼や双眼鏡ではその行動をじっくりみることはできませんので、野鳥ガイドがいる日や私共NPOのスタッフに声をかけていただいて、40倍以上の望遠鏡でじっくりとその姿や行動を見てください。いろんな形の嘴や、餌を取るしぐさを観察しながら、長い旅の途中でのシギチとの出会いを楽しんでほしいと思います。

 

 春の林 

 春の早朝、運よく渡りのピークにあたれば、まるで森の中に入った様な小鳥たちの歌に包まれます。この歌は、雄が繁殖地の森や高原でさえずるラブソングですが、通過地点の公園などでも早朝に聞けるのです。彼らが奏でる歌をぜひこの春に聞き分けてください。 野鳥園には多くの歌い手が立ち寄りますが、その代表格というとコルリ、オオルリ、キビタキの3種でしょう。コルリとオオルリの雄は、青く輝く瑠璃色の羽につつまれた「青い鳥」。低木の中にうまく身を隠してかん高くさえずるのはコルリ。木の梢にとまり堂々と胸を張ってまろやかな声で歌うのがオオルリ。薄暗い場所から聞こえるやさしい声の主がキビタキで、黄色の胸と背中の黒の配色が美しい鳥です。

キビタキ

キビタキ
成鳥雄がまず渡ってきます。大きな丸い目、くちばしの根元が平たく、
大きな口を開けることができます。くちばしの根元に毛がみえますか。
サクラの枝にとまって飛んでいる虫をねらっているのでしょうか。

 

 オオルリは4月上旬、キビタキは4月中旬、コルリは4月下旬~5月はじめにやってきます。センダイムシクイ、エゾムシクイ、ヤブサメといったムシクイの仲間も、地味な姿ですが、特徴ある歌声ですぐにわかります。また、5月上旬から中旬には、毎年のようにサンコウチョウが渡来しますので、ひょっとしたら尾の長い♂の歌声を聞いたり、ひらひらと飛ぶ姿を見ることができるかもしれません。

サンコウチョウ

サンコウチョウ
毎春やってきますが、長い尾の雄にはなかなか出会えません。
青いアイリングと青いくちばし、独特の歌声、とても不思議な鳥です。
英名はパラダイス・フライキャッチャーといいます。

野鳥園からの風景

  野鳥園の展望塔からは大阪湾が目の前に開け、明石海峡をはさんで六甲山系と淡路島が一望でき、夕日も綺麗です。この風景は、江戸時代の住吉大社前に広がっていた干潟からの風景とつながります。野鳥の声を聞きながら、春風にあたってぼんやり過ごすのにもいいところです。

展望塔からの風景

展望塔からの風景
野鳥園の干潟の向こうには大阪湾が広がり、明石海峡をはさんで、
左手が淡路島、右手が六甲山系です。ここは船も野鳥も通る道です。

 

(たかだ ひろし)

写真:NPO法人南港ウェットランドグループ理事 岩崎 隆治


 

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