天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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小鳥舎と鳥の飼育の思い出

1976年3月1日に、大阪市職員に採用されて天王寺動物園の飼育係として、小鳥舎と一時収容舎を担当することになりました。当時の小鳥舎は、木造の屋外展示が4カ所で屋内展示は、大小の鳥かごを置いて飼育展示していました。鳥の種類は、コバタン、オオバタン、キバタン、ダルマインコ、コザクラインコといった小型から中型のオウム・インコ類やアカコンゴウインコ、ルリコンゴウインコなど大型インコ類、ブンチョウ、ジュウシマツといったフィンチ類、またキュウカンチョウなどを飼育していました。小型の鳥を飼育するには、体調管理が非常に難しく発見した時点ではすでに手遅れでほとんどが、肺炎で死亡してしまいました。小鳥舎は昔の建物なので冬の暖房は、現在のように良い空調設備がなくスチーム暖房で、温度、湿度はスチーム管に水を掛けたりして調整していました。また、一時収容舎では、キンケイ、ギンケイといったキジ類の繁殖を孵卵器(ふらんき)ではなく、チャボに抱かせて繁殖をさせていました。孵化(ふか)した雛(ひな)の育雛(いくすう)なども本当に良い勉強になりました。しかし飼育作業が細かく大変でした。

 その後 1978年11月4日、新しい“小鳥の家”が建てられて、新たな小鳥たちが入園しました。

小鳥の家

小鳥の家

 それまでとは違う鳥で、屋内展示ではホオアカコバシタイヨウチョウ

ホオアカコバシタイヨウチョウ

ホオアカコバシタイヨウチョウ

 サンショクキムネオオハシ、アオゲラ、ヒガシラムクドリモドキ、テリムクドリなどの小鳥類、屋外展示はインコ類のキボウシインコ、アオボウシインコなどの展示ケージと、カササギサイチョウ、サイチョウ、オオサイチョウ

オオサイチョウ

オオサイチョウ

 などのサイチョウ類の飛ぶ姿が見られるフライングゲージ方式の展示に大きく変わり、展示数も5倍位に増えて、今までの鳥かごでの飼育でなく何種類かの鳥を複数雑居させて展示しました。そのため飼育していくうえで、体調管理も数倍難しくなりました。その中でもタイヨウチョウは、花などのいろんな蜜をフォバリングといって飛びながら静止して密を吸い採餌するので、花の蜜の代わりにハチドリ用のネクター(人工飼料)や蜂蜜と練乳を混ぜたものを与えていました。その餌は非常に傷みやすいので一日5回~8回で交換しないといけないし他の鳥には、果物を細かく切った餌やミルワーム、コオロギ、鳥用ペレットを与え小鳥を飼育することの難しさを実感し苦労したことを思い出します。

 その後、鳥類の飼育は、チリーフラミンゴ、ヨーロッパフラミンゴ、コフラミンゴ、ニホンコウノトリ、タンチョウ、ホオジロカンムリヅル、アネハヅル、ナベヅル、オオヅルなど飼育してきました。

 その中で1993年に当園で初めて繁殖に成功したニホンコウノトリについては思い出深いものがあります。両親は1984年に上海動物園生まれ1987年に入園した雄と多摩動物公園から1991年に借り入れた雌です。1981年に完成したコウノトリ舎は高さが13m、巣台の高さも6mほどもありコウノトリが飛んで巣台に飛び上がることができずに、激突したりして怪我をしたりしたので、高さ3.6mのところにネット張り天井を下げて、中央で間仕切りし2室にわけてペアリングに時間をかけて、片方の展示場に高さ1.3m・一辺が1.5m四方、深さが0.5mの巣台を園路側から見て左端中央部に設置し、園路側に植栽を植えて目隠しを作りました。一つ良かったのは、動物舎自体が園の端にあり入園者にあまり目につかない場所であったことです。ペアリングは1991年4月から8カ月を経た1991年12月に同居開始、1992年4月雄雌がクラッタリング(求愛行動)をしていたので、巣材として柳の小枝を入れましたが、巣作りしませんでした。そして次の繁殖期に向けて除草せずにそのままにし、1993年の繁殖期入る3月末~4月から餌を与える以外は植栽刈込や展示場内の除草もせず、巣材の柳も少しだけ巣台に入れてあとは、繁殖個体にまかせました。4月にクラッタリングを確認し交尾行動は確認できませんでしたが、5月に入ると巣作り行動を開始し、次の日に巣に座っているのを確認しました。翌日から3日続けて3個、産卵を確認しました。コウノトリの抱卵期間だいたい30日~35日、長くても40日までに孵化します。6月に入って抱卵32日から1日置きに3羽孵化(ふか)しました。孵化(ふか)した雛(ひな)は孵化(ふか)した順に大、中、小と少し体格差がありました。

3羽孵化(ふか)したニホンコウノトリの雛(ひな)

3羽孵化(ふか)したニホンコウノトリの雛(ひな)

 親が初めてなので餌をうまく与えるか、それに一番小さい雛(ひな)を見捨てないか心配でしたが、給餌量を通常の倍の量にしても足らないくらいで、みるみるうちに3羽とも異常なく同じ大きさに成長し、半月位で親の半分ぐらいに育ち、25日位になると餌の量も1.5倍になり、また雛(ひな)の目の周りや嘴(くちばし)が始めは赤色でしたが30日目位から嘴(くちばし)の先から黒なってくるのを確認し、35日目位から立ち上がろうとし、排便も巣の中でしていましたが立ち上がるとすぐに便を外にするようになりました。このようなしぐさをしだすと巣立ちが近いので2カ月位で巣立ちしました。雛(ひな)は兵庫県立コウノトリの郷公園や日本各地の動物園に出園し、種の保存に貢献しました。

 ツルに関しては、以前の動物舎での繁殖についてお話ししましょう。ホオジロカンムリヅルはとても良いペアで何羽も雛(ひな)を育て他園に出園しました。また、オオヅルも、2007年に何十年ぶりに産卵し孵化(ふか)しましたが雛(ひな)が育ちませんでした。一方ではこのペアが2008年7月2日に1卵目を産卵し7月5日に2卵目産卵、29日目で1羽が孵化(ふか)次の日に2羽目が孵化しましたが、2羽目の雛(ひな)は起立不能で取り上げ人工育雛(いくすう)しながら治療しましたが、9日後に死亡しました。1羽目の雛(ひな)も大変でした。普通であれば6月初旬に雛(ひな)が孵化して気候のよい時に仔育てするのですが、大変な猛暑でしたので雛(ひな)が蒸れて死んだり親も暑さで体調を崩したり、餌がすぐに腐ったり(餌はドジョウ、アジを細かく切った物、コオロギ、ミルワーム)するので、細目に変えてあげないといけないし、日陰を作ってやらないといけなかったり、隣の展示室には他のツルがいるので行けないようにしたり、池に落ちたりしないようにしたり本当に苦労しましたが、無事育ち出園していったので、ほっとしました。

 エミューについては、2015年9月に雌が来園し、検疫終了後雄のいる展示場に移動させたときからです。始めは何も考えていなかったのですが、ふとエミューとの「ふれあい」とか「園内散歩」ができないかと思い担当班には邪魔かと思いつつ、まず声を覚えるか試したところ他の人との声を聴き分けていました。それからは、出勤したときはエミューの所に行き声をかけ触れていくようにしていき次には展示場に入り触れていくよういし、さらに次はどこを触れると嫌がるかなどをためし、その次は背中を撫でて少しずつ下に押さえるようにしていくと、座るようになっていきました。今では前に立って手を下に降ろすと座るようになってきましたので、あとは他の人でもできるようになれば「ふれあい」は可能になります。個体によるかと思いますが、カラ(雄)は思っていたより賢い個体ですので園内散歩もできるようにしたいと思っています。

 

(松村 幸治)

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