ホッキョクグマ・モモの成長記録


 今回は、2014年11月25日に無事に誕生し、成育しているホッキョクグマのモモ(百々)のお話をしたいと思います。ホッキョクグマの飼育下での繁殖はとても難しく、しっかり準備をしないと育児放棄につながってしまいます。バフィンは、過去3度浜松市動物園で出産していますが育児に至らなかったのです。

 そこで、産室の改修や寝室前にコンクリートブロック設置、飼育員も動物舎に入らず離れた場所にあるクマ舎の管理室で監視カメラと集音マイクで監視、雄の気配も近くになく、防音、遮光という準備をして出産に備えました。野生のホッキョクグマは、出産時は巣穴にこもり静かな環境で出産、育児をします。動物園での環境は野生下ほどの環境は提供できませんが、少しでも似た環境を提供しようと思いました。

 そして、11月25日16時頃にバフィンは出産しました。産室でずっと暮らしていたのに、出産数日前より寝室で暮らす時間が延びました。出産当日の朝は、監視カメラからの映像でバフィンのお腹を見ると呼吸が荒いのが確認できました。しかし、残念ながら昼間に1年に1回行わなければならない法定電気設備点検のため停電していたので出産シーンは記録できませんでしたが、復電してからモニターを見ると産室の奥でバフィンが座っていました。赤外線を気にするとの他園のホッキョクグマの話を聞いていたので、産室の奥には、あえて死角を作りました。バフィンが寝室から産室奥の死角ゾーンに移動していたので、まさか!と思い耳を澄ませるとモモの鳴き声が聞こえました。私は、一度立ち上がったけれども、いや、落ち着こう!と再度座ったことを覚えています。また一方では一人の確認だけでは不確かなので、担当獣医師を呼んで一緒に確認し、確信をもってその喜びを共有しようと他の職員にも無線で出産を伝えました。2011年より切望していたバフィンの出産です!と、喜ぶことより、バフィンが育児をすることができるのかという心配の方が勝っていました。しかし、モニター越しではあるものの、バフィンがちゃんと育児しそうだという雰囲気は伝わってきました。この時に鳴き声は重なっていなかったので赤ちゃんは1頭のみというのも聴き取れました。4時間後に授乳時に聞こえるモモの“ささ鳴き”も確認できました。これでバフィンは育児に挑戦していると確認できました。2日後には、2時間に1回という安定した授乳をしており少し安心しました。それからはバフィンの行動観察、特に授乳回数と時間をひたすら記録しました。

 

産室内をモニターでチェック(バフィンの胸元にモモがいます)

産室内をモニターでチェック(バフィンの胸元にモモがいます)


 この記録は、必ず将来繁殖に挑戦する人たちに役に立つデータだと思い記録しました。同時にこの繁殖の結果が失敗でも成功でも次につなげるために経過をできるだけ頻繁にスタッフブログで報告しました。途中、バフィンがワラを食べ始め、予定より早く給餌するというアクシデントはあったものの(52日間絶食)、モモは元気に成長していきました。生後33日齢に開眼、44日齢には、自力で産室から出ようと試みていました。48日齢にはよちよち歩きながらも寝室で休憩するバフィンを探して歩いていました。69日齢よりバフィンモモは、寝室で暮らすようになりました。そして、75日齢!待ちに待ったモモとの対面。ホッキョクグマ舎に1頭増えたんだと実感しました。バフィンは飼育員がモモに近づくことを思っていたより警戒しませんでした。84日齢には、モモは寝室内を走り回って、外にいるゴーゴに興味を持ち外へ近寄ってはバフィンに怒られていました。ゴーゴも中に何かいると興味津々でした。もちろんバフィンに怒られていました。

 ここまできたら次に行うのは、性別判定です。95日齢にバフィンモモを引き離して判定を行いました。バフィンは激怒しているので、素早く作業を行いました。モモも予想以上に暴れて飼育員をかもうと必死でした。革手袋の上からかまれたのですが、ペンチで挟まれたような強さでした。素手だと大変なケガを負うほどのかむ力なので、小さくてもやっぱりホッキョクグマだなと思いました。作業は素早くするにこしたことはありませんが、間違っては意味がないので、他園から提供していただいた子グマの陰部の写真と照らし合わせて複数人で確認しました。目視では雌でした。念のため毛を採取し、DNA鑑定をしていただいたのですが、こちらも雌という結果でした。

 

95日齢の時に性別判定を行いました

95日齢の時に性別判定を行いました

 

 とうとう皆さんの前にモモをお披露目する日が近づいてきました。しかし、先に大きな仕事がありました。3月2日に雄のゴーゴを繁殖目的のためにアドベンチャーワールドに送り出す作業です。搬出作業は複数の職員で行うため、搬出の数日前から複数の人間がホッキョクグマ舎に入る練習も行いました。少しでもその日の環境に慣れてくれた方がストレスも抑えることができると考えたからです。しかし、それでもバフィンは興奮しましたが、無事にゴーゴを送り出すことができました。ゴーゴの搬出後、寝室前のコンクリートブロックも撤去しました。このブロックのおかげでゴーゴバフィンの距離を取ることができ、十分過ぎるほど役目を果たしてくれました。真っ暗だった寝室に自然の光が射し込みました。

 そして、3月10日、105日齢に無事に皆さんの前にモモをお披露目することができました。最初は、泳げないので溺死する恐れがあり、プールに水は張らないことにしました。高い所から落ちてもケガをしないように枝葉とワラをクッションにセットしました。ところが、予想に反して初日からモモが堀に転落し、段を登れず、土嚢を投げて階段を作って収容するというアクシデントもありました。

 

展示開始当初はプールに水を張らず、転落に備え枝葉とワラのクッションを用意しました

展示開始当初はプールに水を張らず、
転落に備え枝葉とワラのクッションを用意しました

 

 放飼場にも慣れ、足腰もしっかりしてきたので3月23日にクッションの枝葉とワラを撤去し、少しずつ水位を上げて泳ぐ練習をさせることにしました。泳ぐ練習は、基本的にお母さんのバフィンがプールに誘うという教え方です。バフィンが誘いやすいようにバフィンにオモチャを与えて、オモチャで誘ってもらったりしました。3月28日、123日齢で初めて泳ぐ姿を確認しました。一か八かでプールデビューさせるのではなく、しっかり環境に慣らして、足腰を鍛えてからプールデビューという計画は成功だったと思います。123日齢で泳ぐというのは、他園館の子グマと比べても見劣りしません。今では、プールに飛び込み、潜り、オモチャで遊んで元気に走ったり泳いだりしています。

 

生後6カ月も無事に過ぎ(5月25日)、泳ぎも上手になり活発に遊び回っています

生後6カ月も無事に過ぎ(5月25日)、
泳ぎも上手になり活発に遊び回っています

 

 泳ぐことができた3月28日にはロシアからイッちゃんが来園しました。まだバフィンモモは警戒していますが、段々と距離は縮まっています。これからこの3頭がどうなっていくのかは、現在はわかりませんが、1日1日大切に元気に育ってほしいと思います。そして、いつか皆さんに選んでいただいたモモという名のホッキョクグマがお母さんになったというニュースが聞ける日が来ることを願っています。

 

(下村 幸治)

 

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