天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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ハズバンダリートレーニング

 皆さんがおうちのワンちゃんネコちゃんの調子が悪くなって動物病院に連れて行ったときには、病院では何をしているでしょうか?まずは診察・検査として症状の聞き取り、体重測定、血液検査、聴診や触診をします。症状を診て必要であれば麻酔をかけてレントゲンや手術なども行うことになるでしょう。

 では動物園の動物では何ができるでしょうか?症状の聞き取りは飼育員さんから行うことができます。小型の動物であれば手で押さえて検査をすることもできますが、非常にストレスがかかります。ホッキョクグマなどの猛獣は血液検査をするにも麻酔をかけなければなりません。麻酔をかけるにもければいけないのですが、目で見て推測するしかありません。さらに麻酔をかけるだけでも体に負担がかかり、命の危険も考えなければなりません。ゾウやサイなど大型の草食動物ではなおさら危険性が高くなります。このように動物園の動物では検査すらも満足にできないまま治療をしなければならないという状況が多々でてきます。
最近になってハズバンダリートレーニング(受診動作訓練)という技術が取り入れられ、動物園の動物でも体重測定や血液検査などを麻酔を使わずに行うことができるようになってきました。ハズバンダリートレーニングはごほうびなどを使って動物が自分で行動することを引き出すため、動物自身も楽しんで参加できます。その状態で血液検査を行うことができると、ストレスの影響を受けない数値を見ることができ、普段の健康状態をより正確に検討できるようになります。
天王寺動物園でもクロサイやキリンなどでハズバンダリートレーニングによる体重測定に成功し、ホッキョクグマやクロサイなどで採血に成功しています。成功するまでには動物の種類ごとに採血をする場所や体勢を考えていく必要があり、それぞれの動物で苦労することも違ってきます。

 ホッキョクグマでは他の動物園の例を参考に、手の甲の血管から採血をしています。しかし血管自体を目で見ることはおろか触ることもできないので、このあたりに血管があるはず!という場所をめがけて針を刺していくしかありません。4、5回針を刺しても血管に刺さらないこともよくあります。

 クロサイでは耳の血管から採血をします。ホッキョクグマとちがって血管は目で見えるし触ることもできるのですが、そこはクロサイ。皮膚が非常に硬いため、新しくて鋭い針でないと血管まで刺しいれるだけでも難儀することがありまし冬場には血管が縮んでしまうため、温タオルで温めてからでないと血管が見えてこないこともあります。

 このように苦労することもありますが、麻酔をかけるよりもはるかに動物にやさしく、普段の健康状態を見ることができるハズバンダリートレーニングを今後も継続して発展させていかなければならないと思っています。

ハズバンダリートレーニング


(越智  翔一)

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