天王寺動物園「なきごえ」WEB版

天王寺動物園「なきごえ」WEB版 2017.7月[夏号]

人と動物の架け橋

 

 私が育った環境にはいつも動物がいて、一人っ子の私には良き遊び相手でした。小学校の頃には、お人形遊びが流行っていても、私ともう一人気の合う友達とで、虫採り、トカゲ採り。文集にも、将来の夢は獣医さんと書き込んでいました。仕事に就いた後、自分が飼った経験のなかった猫をどうしても飼いたくなり、当時牛の往診をしていたので農家さんから子猫をもらいました。賃貸住宅で「猫は飼ってない」といいながらニャーニャー鳴く生き物と暮らしていました。この原稿もその猫に邪魔されながら作っています。

 臨時職員として天王寺動物園で働いた1年間は、私の人生の中の宝物です。働き始めて3日目、ジャガーの子どもの尻尾がなくなるという大事件が!当初、血が結構出たのか貧血気味の子ジャガーでした。さすが猛獣だなぁ…こうなってしまうんだなという思いもありました。対する手術は、縫う、数日して皮膚が尻尾の動く圧力に耐えられず、裂けたらまた縫うの繰り返しでした。子ジャガーの毛は子猫のようにフワフワしたものかと思いましたが、毛足の短い絨毯のような意外とガッシリとした手触りでした。そこから3カ月弱入院している間、最初短い歯も歯茎からニョキニョキと生え、倍程の長さの犬歯になると、甘噛みでも人間は耐えられないといった具合になっていきました。毛もいつのまにか硬い産毛はなくなりツルッとした質感の毛に換わっていました。

 私は、動物にはいつもこの手で触りたいという衝動にかられます。五感の感じ方は人それぞれ違うので、直接アクションすることを大切にしているからでしょうか。動物園の主な役割の一つに「教育」があります。私は、「伝える」ことは大事だけれども、「伝わる」ことはごくわずか、「感じとって」ほしいと思っています。

 その子ジャガーも立派に大きく育ててもらい、卯月佐助という素敵な名前ももらって、他園へ旅立つ時が迫っています。楽しい1年間をありがとう。また会いに行きます。

野間馬の福ちゃんと

野間馬のちゃんと

(づし なおこ)

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