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天王寺動物園「なきごえ」WEB版 2017.7月[夏号]

メキシコからカバを迎える ~その舞台裏~

 天王寺動物園では、これまで雄のテツオと雌のティーナという2頭のカバを飼育してきましたが、残念ながら赤ちゃんの誕生にはつながりませんでした。そろそろテツオも年老いてきたため、世代交代を考え若い雄に来てもらおうという話になりなりましたが、国内のカバは血縁関係にあるものが多いため、海外の動物園から呼んでくることになりました。

 動物を海外から輸入するにあたっては、様々な制限があります。限られた国からしか輸入できない動物種もたくさんあります。カバについては、検疫の制限によって今のところはメキシコからしか輸入できないことになっています。(検疫とは、感染症が国を越えて広がることを防ぐための制度です。)実は、雌のティーナも1999年にメキシコのグアダラハラ動物園から来園しています。今回も、メキシコの動物園に適当な年齢の雄を輸出してもらえるようお願いすることになりました。

 天王寺動物園はSpecies360(スピーシーズ・スリー・シックスティ)という国際組織のメンバーになっています。この組織は、世界90カ国1000以上の動物園水族館で飼育されている動物の情報をデータベースで管理しています。まずは、このデータベースで、どこでどのようなカバが飼育されているのかを調べました。その結果、メキシコの2カ所の動物園で、若くてティーナと血縁の無い雄が飼育されていることがわかりました。そのうちの1カ所が、今回カバを提供してくれたアフリカンサファリです。

 2015年の秋に、動物園水族館の国際会議がアラブ首長国連邦で開催されました。この会議の最中に、アフリカンサファリに対してカバを輸出してほしいとお願いし、この時からカバ輸入の取り組みが本格的に始まりました。

 当初はブリーディングローンという制度(繁殖のための貸し借り制度)によって、カバを借り受けようと考えていましたが、今回は寄贈していただけることとなりました。現在、動物園で飼育されているほとんどの動物種は、野生から獲ってくることはできません。動物園で繁殖させて、お互いにやり取りしながら動物を維持する必要があります。ですから、今回はカバを寄贈していただくことになりましたが、この先機会があれば、こちらからも動物を贈ることが必要です。そのため、今回アフリカンサファリと天王寺動物園の間で、今後もお互いに協力しようという協定書を交わしました。

 2016年の秋の国際会議は、アフリカンサファリで開催されました。会議参加のためにアフリカンサファリを訪問し、この機会をとらえて贈っていただくカバと対面しました。また、カバの輸送についての打ち合わせも行うことができました。世界中から数百人が集まるような大きな会議を開催している最中に、天王寺動物園のために特別な対応をしていただけたことは、本当に感謝すべきことです。これを機に、カバの輸送に関する取り組みが加速されました。電子メールなどで地球の裏側とも瞬時にやりとりできる世の中ですが、やはり直接会って打ち合わせをすることは大切だと感じました。

 その後、輸送を株式会社阪急阪神エクスプレスに担当していただくことが決まり、輸送のルートも決まりました。アフリカンサファリのあるメキシコのプエブラ市から首都のメキシコシティまではトラックで輸送し、そこから貨物用飛行機でアメリカ西海岸のロサンゼルス経由で成田空港まで輸送し、成田から横浜の検疫所までトラックで輸送するというものです。必要な書類も少しずつ整い、輸送の日取りも3月13日にプエブラ市を出発して、15日に成田に到着することに決まりました。航空会社からは、万一の事態に備えて動物の扱いに慣れた専門家が輸送中カバに付き添うよう求められましたが、なんとアフリカンサファリの園長さんと共同経営者であるそのご兄弟が、カバに付き添ってくれることになりました。お二人は、これまでに数十件の大型動物輸送に立ち会った経験があるとのことで、安心してお任せすることができました。

 いよいよ輸送の当日、すんなりとメキシコから飛び立ってくれるものと考えていましたが、経由地のロサンゼルスが霧のためフライトがキャンセルになり、カバはメキシコシティの空港に足止めされているとの連絡が入りました。代わりの航空便の調整が進められている間に、カバが弱ってきているようだとの連絡が入りました。輸送を進めるか引き返すかの判断を付き添ってくれている園長さんにお願いし、それぞれの場合の準備を検討していたところ、カバの体調が落ち着いたので翌日の便に乗せるという連絡が届きました。カバがメキシコを飛び立ったことを確認してから、医療用の機材を持って成田空港に向かいました。カバの体調が本当に深刻な状態なら、空港で処置できることは限られているのですが。

 3月16日の午前中、成田空港の駐機場にカバを乗せた飛行機が入ってきました。カバの輸送檻(おり)が降ろされ、静かに中をのぞき込んだ時、ぐったりした表情のカバが床に伏せていたためドキッとしましたが、少し刺激するとむっくりと立ち上がったため、胸をなでおろしました。空港で税関と動物検疫所の手続きを終え、輸送檻(おり)をトラックに積み込み、横浜の検疫所に向かいました。カバを輸入する際には、検疫所で2週間隔離して飼育しなければなりません。カバのような大きな動物を飼育できる検疫所

、今のところ横浜にしかありません。カバを検疫所の隔離室に収容した時には、周囲はすっかり暗くなっていました。カバは、真っ先に大量の水を飲み、しばらくして餌を食べ始めました。ハプニングのあった長旅を、よく耐えてくれました。

 このカバ、4月1日に横浜の検疫所を出て、当日暗くなってから天王寺動物園に到着しました。とても用心深い性格のようで、天王寺動物園のカバ舎や飼育担当者に慣れるのに時間がかかっていましたが、6月末になって屋外のプールに出てくるようになりました。ようやく皆さんにお目にかかれるようになりましたが、これから別のプールに慣れてもらわなければいけませんし、ティーナとの同居も控えています。まだまだ、やることがたくさんあります。

 ところで、このカバにはまだ名前がついていません。皆さんに良い名前を付けていただければと思います。

成田空港で飛行機からカバを降ろしているところ。

成田空港で飛行機からカバを降ろしているところ。
中央の輸送檻(おり)の中にカバが入っています。

到着直後の、輸送檻(おり)の中のカバ。ぐったりした様子でした。

到着直後の、輸送檻(おり)の中のカバ。ぐったりした様子でした。

横浜の検疫所に入ったカバ。大量の水を飲んだ後に、落ち着いて餌を食べ始めました。

横浜の検疫所に入ったカバ。大量の水を飲んだ後に、落ち着いて餌を食べ始めました。

(高見 一利)

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