株式会社阪急阪神エクスプレス ロジスティクス事業部・ロジスティクス事業推進課長
(輸送当時:東日本営業本部・輸入営業部・営業一課・担当課長)
小髙 毅
最初に、今回この様な面白くやりがいのある仕事をお任せ下さった、天王寺動物園様に感謝すると共に、カバくんが元気で天王寺動物園の環境に馴染(なじ)んでくれていることを、心から願っています。
今回の輸送が決まって、早速当社では日本・米国・メキシコ法人そしてメキシコ代理店の合同プロジェクトチームが結成されました。どの様な仕事でも同じかと思うのですが、動物輸送も準備が全てと言っても過言ではなく、まずは輸送ルートとスケジュールの組み立てが一番の重大事です。
出発都市から到着都市への直行便が飛んでいれば、動物の体にかかる負担を考えると最善の選択肢となるのですが、カバくんの様な大型動物の場合、檻の高さが旅客便の貨物室(殆どの航空機の貨物室は、旅客が乗っている床下部分です)に入らない為、貨物専用機を使った経由便となるケースが多くなります。
動物の輸送は人間の旅行とは違い、運ばれる動物の種類毎に各国で発生している動物の病気発生状況により、「第三清浄国」と呼ばれる経由が認められる国に大幅な制約があり、その経由地での滞在時間等も明文化された規則が少ない中で、経由国の関係省庁や検疫所と事前に交渉して許可を得る必要もあります。
到着地の成田空港では輸送時間をできるだけ短くできる様、輸入通関の手続きの他、動物検疫所の執務時間に隔離検疫所への転送手続が完了できる様な時間に到着する便を選ぶ必要もあります。こう書くと「どうして関西空港に到着させないの?」という疑問をお持ちになられる方もおられるかと思います。実は多くの動物は日本への到着後、一定期間を隔離検疫施設で過ごす必要があり、大型動物の隔離検疫施設は横浜にしか存在せず、このため今回のカバくんの経由地はアメリカ・ロサンゼルス(以降、LA)、到着地は成田空港ということでルートが決定しました。
次に航空会社です。昨今業務の選択と集中を進める航空会社各社は、ノウハウの蓄積や技術の伝承が進まなかった航空会社を中心に、多くの知識と経験が必要であり、リスクが高い動物輸送を受託しない会社が増える中、今回の輸送ではこれらの問題をクリアして受託して頂くことになった日本貨物航空(KZ)を起用することとなりました。メキシコシティ空港からLA空港までは同社の協力会社である貨物輸送航空会社のAERO UNION航空(6R)、LA空港から成田空港までは日本貨物航空で運ぶというプランを決め、準備を進めました。
輸送ルートとおおよそのスケジュールが決まり、プロジェクトチームのメンバーが各所で各種手続の準備を着々と進めていきます。今回は特に日程的に年度内の動物園到着をご希望ということで、出発先のアフリカンサファリ様からのカバくん出発可能日とすり合わせる中で時間的に一刻の猶予も無い厳しいスケジュール設定になったものの、ほぼ色々な状況が整ったことを確認、約一週間前に私はメキシコ側の準備の最終確認とカバくん送り出しの為にメキシコに出発しました。
メキシコ到着後の確認では、全てが想像以上にきちんと出発に向けた段取りが整っており、日本の様に物事が当たり前かつ順調に進むことに不安を感じる疑り深い性格は社会人生活の半分が発展途上国勤務だった私の習い性なのですが、それが拍子抜けするほどの順調な内容でした。到着して二度目で最終となる出発前日にアフリカンサファリ様にお邪魔させて頂いた際にも、皆さん本当に動物を愛するプロフェッショナルな方々が誇りを持って生き生きと仕事をされており、一緒に今回のプロジェクトを進めさせて頂く喜びを感じておりました。
夜明け前のトラックへの積み付け@アフリカンサファリ
メキシコシティ市内の渋滞
そして運命の日、3月13日(月)まだ夜も明けきらぬ朝6時過ぎ、カバくんはアフリカンサファリを我々と共に出発、メキシコシティ空港には9時30分頃に到着しました。空港到着後、輸出通関や飛行機に積み込むためのパレットへの檻の据付、直射日光が当たらぬよう、風通しの良い場所に消毒済みの専用スペースを用意し、関係者が皆連携してスムースに進んでいき午後の早い時間には全ての段取りが完了、後は出発を待つだけとなりました。
メキシコシティ空港到着時のカバくんと私
「メキシコシティからLA行きへの搭載及びフライト出発の確認情報を経由地LAの当社チームと到着地東京のチームに入れ、一晩寝たあとLAでの接続確認を行って到着地東京へ連絡、カバくんを追って私もLA経由で日本への便に搭乗して」とこの後の仕事を頭の中で確認しつつ、空港現場から遅い昼食を空港内で終えて当社メキシコ法人と代理店が一緒に入っている事務所に戻ってきた16時30分、少し変な空気が漂っています。「LAの空港が深い霧に包まれていて、今日のLA到着便が軒並み遅れているらしい」、情報の真偽をインターネットで確認していると追い討ちをかけるように「本日のLA行き6R-300便がフライトキャンセルとなった」と連絡が入り、一瞬にして事務所の空気が凍りつきました。
メキシコ到着日以降、毎日お世話になったテレビ会議システムを再び立ち上げ、日本・米国・メキシコを結んで次善策の確認と対応の協議が始まりました。
メキシコ「6Rは、翌朝の6R-302便でLAまで運ぶと言っている」
米国「USDA(米国農務省)は接続の為カバが14時間米国の空港で滞在することを認めない」
メキシコ「日本でKZに6R-302便から接続できるよう、KZ-105便の出発8時間遅延交渉はできないか」
日本「KZに交渉も他の貨物状況と運行スケジュールの関係で却下された。接続は翌日のKZ-109便とのこと」
米国「KZ-109便だと、メキシコシティからの便は一日遅れの6R-300便でなければUSDAの経由許可が出ない、さらにKZ-109便はLA発サンフランシスコ経由成田行きだ、サンフランシスコでの経由許可手続きをUSDAに申請をする必要あるが、許可が間に合うかどうか分からないがやってみる」
メキシコ「当地でAERO UNIONと交渉中だが、翌日6R-300便には生鮮魚の予約が入っていて、カバくんのスペースが取れないと言っている。まず6R-302便で出すと米国で立ち往生するので搭載はさせない様にし、引き続き6R-300便の搭載要求を健康状態確認と並行して進める。翌朝メキシコ税関の許可を得て給餌・給水・掃除を行うと共に、一日遅れの輸送に耐えられる健康状態か確認する」
メキシコ時間の深夜までに、「健康状態次第で6R-300に搭載、KZ-109接続」の方針が決まり、長い一日が終わりました。
翌14日(火)カバくんの元気が午前中一杯で確認でき、6R/KZとの丁々発止の厳しい交渉を経て無事6R-300便のスペースを確保、米国ではUSDAとの交渉の上、LAとサンフランシスコ両空港での当社人員の空港立会いと責任担保を前提に接続許可を得、この日の6R-300便はLA空港の霧でキャンセルになる事も無く到着、一日遅れのKZ-109で成田空港、その日のうちに横浜の動物検疫所に到着、そして検疫明けの4月1日に無事天王寺動物園様に到着することができました。カバくんが健康を害することなく無事天王寺動物園に到着できたことを本当に嬉しく思い、これからの活躍を願って筆を置くこととさせて頂きます。ありがとうございました。
横浜から天王寺動物園までの道中、高速道路サービスエリアでの水やり
(こたか たけし)
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