天王寺動物園「なきごえ」WEB版

天王寺動物園「なきごえ」WEB版 2017.4月[春号]

動物と最後まで暮らす

 突然ですが皆さんはペットを飼っていた経験はありますか?数年前からCMやテレビなどでたくさんの動物が出演しています。その影響もあってか空前のペットブームが勢い衰えることなく続いています。イヌ、ネコ、インコ、ヘビ・・・昔と違い今は多種多様の動物を飼っている方がたくさんいます。私たち動物にかかわる仕事をしている人間にとって動物を好きになってくれるということは、とても嬉しい気持ちになります。しかし、ブームの明るい舞台の裏には悲しい話があることを知っていますか?

 私は飼育員という仕事について約2年になりますが、以前は保健所で動物関係の仕事に就いていました。簡単にいえば、人と動物が健康で快適に暮らせるようにお手伝いをする仕事です。負傷した動物の保護や、人が飼っている動物が近所に迷惑をかけているとき、自宅に訪問して飼い主さんと迷惑をかけない飼い方相談などを行っていました。当然ですがペットを飼っている人からの相談もあります。その中でも一番つらい相談内容が「飼っているペットを引き取ってほしい」という相談です。「子どもが小さい時に飼っていたが成長して家から出てしまい、親である私たちにはお世話できない」、「家を売って老人ホームに入ることになったがイヌは持ち込めない」など飼い主さんの理由も様々です。

殺処分をするのは飼い主さんではなく大阪市の職員です。

 平成27年度大阪市で引き取りされた数はイヌ103頭、ネコ2,221匹この内、飼い主さんからの引き取りはイヌ58頭、ネコ158匹です。譲渡会を通じて新しい飼い主さんに引き取られ新たな生活を送っている動物もいますが、約2000頭のイヌ、ネコが殺処分されています。

 今は全国的に殺処分を減らす取り組みが行われています。その代表的な活動が「地域猫」とよばれるものです。野良猫を捕獲して避妊・去勢手術をした後、生活していた場所に戻す取り組みです。大阪市でも地域、団体等の協力を得て平成22年度に「所有者不明猫適正管理事業」いわゆる「街猫」がスタートしました。取り組み当初4,169匹の殺処分数が平成27年度には1,955匹になり大きな成果がみえてきています。

 その他にも定期的な譲渡会や出張型ふれあいを通じて譲渡会の案内なども行っています。

動物管理センターでの譲渡会風景

動物管理センターでの譲渡会風景

動物管理センターでの譲渡会風景

 天王寺動物園では動物を見せるだけでなく動物を通じて様々な学習ができるよう教育普及活動を行っています。地球温暖化、密猟による個体の減少、森林破壊による生息地の縮小の他に、戦争で犠牲になってしまった動物など、担当している動物によってお話しする内容は様々です。

 私たちふれあい担当スタッフもイヌ、ネコに続く愛玩動物(ペット)として飼われている人気動物テンジクネズミ(モルモット)とのふれあいを通じて生態などのお話の他に、動物愛護精神を養う教育普及を行なっています。

 「おうちで飼いたい」、「連れて帰りた~い」楽しい声が聞こえてきます。自宅ではペットを飼うことができないので、定期的にふれあい体験に来園されるお客様もいらっしゃいます。動物とふれあう楽しさ、触れることによって心が安らぐアニマルセラピーといったところでしょうか。

 ふれあいの最後に参加者に向けて「136,724」この数字が何を表す数字でしょうか?と問題を出しています。「餌代?日本でペットとして飼われている数?体毛の数?・・」いろいろな答えが出てきますが正解者はなかなか現れません。実はこの数字は日本全国の保健所、動物管理センター等で引き取られたイヌ・ネコの数(平成27年度)です。この内、新しい飼い主さんの下で新しい生活を得る動物もいますが、約8万頭もの命が殺処分されています。

 まだまだ生きることができる命を少しでも減らしたい。そんなふれあい担当スタッフは思いを伝えるため、動物のお世話をする大変さ、寿命は何年位?などパネルを使い説明しています。和やかな雰囲気から一転して少し重たい話になりますが、皆さん真剣に話を聞いてくれています。

 今は膨大な情報を携帯電話等で簡単に手に入る時代ですので、ペットを飼う際は一度、飼い方、寿命などを調べてから迎え入れてもらいたいものです。

天王寺動物園ふれあい風景

天王寺動物園ふれあい風景

天王寺動物園ふれあい風景

 ペットを家族として迎え入れる時に私たちの話を思い出してもらえると幸いです。

 動物管理センター職員の方からも飼い主さん達へ伝えたいメッセージを聞いてきました。
「殺処分をするのは誰もが好きでやっているわけではない、ペットを飼う前にライフプランを考えて迎え入れてほしい。今は飼い主に終生飼養義務がある事を基本的に考え、多頭数飼養する人は避妊・去勢手術を施し、自分で管理できる範囲でお世話してもらいたい」

 「ペットは家族の一員」という言葉をよく見聞きします。家族だからこそ病気になったとき、介護が必要になったときは全力で支えてあげて旅立つその日まで愛情をたくさん注いであげてください。動物の一生を通じて学ぶ事がきっとみつかることでしょう。

(藤本 哲紀)

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