ーーーーーーーようこそ、暗闇のサーカスへ。
『ほんとに知ってる? 身近な生き物たち』ダンゴムシ&カタツムリ、カエル&両生類に続く第3弾、今回主役に選んだのは「奇蟲(きちゅう)」と呼ばれる生き物たちです。
奇蟲(きちゅう)とはいったい何でしょうか? 「奇」妙な「蟲(むし)」と書いて奇蟲(きちゅう)。ではなぜ、”虫”ではなく、”蟲(むし)”と表しているのか…。むかしむかし、地を這う生き物は全て”虫”と呼ばれていました。その証に、ヘビ→蛇・カエル→蛙・トカゲ→蜥蜴・カニ→蟹と全て漢字の中に”虫”が含まれています。昆虫類はもちろん、現在のは虫類、両生類、その他小動物でさえも全て”虫”だったのです。そして、”虫”の旧字体が”蟲(むし)”であり、多くの生き物が集まっている様子を”蟲(むし)”としていたそうです。
さて、前置きが長くなってしまいましたが、奇蟲(きちゅう)。『身近な生き物たち』とは程遠い! と思われたのではないでしょうか。しかし、よく思い出してみてください。幼い頃、庭先で見かけた「クモ」。朝グモは縁起がいいから殺してはいけない!、と私は祖母によくいわれました。さらには「ムカデ」そして主婦の天敵「ゴキブリ」、いわずもがな身近に存在し、一番遠ざけたい存在でもありますよね。そんな彼らが今回は主役。
「怖い!」「嫌い!!」「気持ち悪い!!!」そんな言葉ばかり浴びせられてきた今回の主役たち。しかし、その全てを理解した上で、今回の企画展に彼らを採用したのには理由がありました。それは、気持ち悪い・怖いというマイナス面だけで遠ざけてしまうにはもったいないくらい、おもしろいからです。おもしろいという感情は人それぞれ違うと思いますが、それを見つけるのが「おもしろい」のです。気持ち悪いけど見てみたい、怖いけどおもしろい、この不思議な世界観と好奇心、そこを「サーカス」と重ねてタイトルにしました。そして、サーカス団を結成するには、必要不可欠なのが団長。飼育員さんのアイデア・作で「クモチョリーヌ団長」の誕生です。
それでは、暗闇のサーカス、開幕です。
クモチョリーヌ団長が描かれた顔出し看板
暗闇のサーカス開幕
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ぎゃーーー!!!気持ち悪っっ!!!無理無理!!!!
予想通りでした。は虫類生態館「IFAR」アイファー(以下アイファー)を入ってすぐ、大きなワニ「ミシシッピーワニ」が大胆なお出迎え。そして、自動扉を越えてすぐマダガスカルヒッシングローチ通称マダガスカルゴキブリのふれあい展示を行いました。ヒッシングとは「シュー」「シッ」「シュッ」などの音を表すもの。このゴキブリは、呼吸器官から音を出し、警戒や求愛の時に使うといわれています。
ゴキブリ…どうやら、日本人にはこの4文字の固定概念は強すぎるようで、文字が並ぶだけ、聞こえるだけで見るどころか、近づくことすら…。しかし、めげずにスタッフは呼びかけます。「羽がないから飛べないんですよ」「動きものろのろしてますよ」「一匹だけ離すとシューシュー音を出すんですよ」すると、「・・・ほんま?・・でも、見た目ゴキブリちゃうな」(ゴキブリなんやけど…「彼らの心の声」)少しずつ、ゴキブリのイメージが変わる瞬間です。その手に乗せて観察してもらうとさらに、「こんなところに角あるんや!」「おとなしいなぁ」「目どこにあんの?」と、好奇心や探究心が芽生えてきます。まずは、嫌悪感を超える生き物の不思議を、しっかりと観察し、知ってもらうために、一番手に彼らを指名しました。
アイファー内を進むと「世界三大奇蟲(きちゅう)」の文字。奇蟲(きちゅう)御三家の登場です。「世界三大美女」や「世界三大珍味」などが存在するように、世界三大奇蟲(きちゅう)も実は決められています。それが、ウデムシ・サソリモドキ・ヒヨケムシの3種。どれも「クモガタ類」と呼ばれるクモの仲間です。この中でも地上に舞い降りたエイリアン(?)こと「ヒヨケムシ」は特に飼育が難しく、一般的にも長期飼育の方法は確立されていません。そんな彼の生体の展示を決断することには苦悩しました。もし期間中に死んでしまったら…。剥製展示にはしたくない。そんな不安とは裏腹に、飼育員さん考案の飼育環境がぴったりはまり、ヒヨケムシは今も元気に動物園で飼育されています。とはいっても、夜行性の彼。昼間は「死んでるやん!」といわれ、たまに動いたら動いたで「気持ち悪っ!」と言われ、散々な思いをさせてしまいました。しかし、複雑に動く4本の牙で穴を掘り、ブルドーザーのように砂を運んだり、その牙の間には大根おろし器(私がそう呼んでいるだけです)があったりと、実はまだまだ不思議が多く、おもしろい生き物です。
さらにさらに奥へ展開する暗闇のサーカス団。世界最大種の奇蟲(きちゅう)コーナーで異彩を放つのは「ダイオウサソリ」。その毒針と、大きなハサミが特徴的なダイオウサソリですが、来場者にとって一番の特徴は「光る」ことでした。ブラックライトを当てるとその体は青白く妖しく光り、見る人を魅了していました。光る原理はサソリの表皮にある「ヒアリン層」が蛍光を発しているようですが、なぜ光るのかはまだ解明されていません。ちなみに、サソリのモノマネが得意な「サソリモドキ」は光りません。残念…。
「子どもたちに大人気! ブラックライトで光るダイオウサソリ」
そして、一番人気だったタランチュラ。企画展では、世界のクモ(タランチュラ)を14種展示しました。タランチュラとはオオツチグモ科のクモの総称で、全身毛に覆われもふもふとした外見は、まさに奇蟲(きちゅう)界のゆるふわ系。樹上性、地中性、地表性、世界最大種、世界最美種、重量級、など世界に8000種以上いるといわれるタランチュラの中から特徴的な種類を集めました。
その外見はもちろん、巣にも特徴があり、皆様が思い描くいわゆるクモの巣とは違う魅力がそこにはあります。華麗で芸術的なのです。他の生き物とは異なり、ほとんど動くことのないタランチュラ達、そんな彼らの魅力を伝えるには生体だけではなく、巣の展示も必要ではないかと考えた結果でした。
コバルトブルータランチュラ(地中性)の巣
ほんとに知ってる? 身近な生き物たち
近年、私たちヒトが自然にふれあう機会は激減しています。インターネットやスマートフォンの普及により、画像で見ること、知識として得ることはあっても、実物を見る機会はほとんどないといえます。暗闇のサーカス団のようにふれあう機会がなく、イメージだけで嫌われてしまう生き物たちもまだまだ多く存在しています。そんな彼らの本来の姿を知ってもらい、少しでも興味をもってもらう第一歩になればと「身近な生き物たち」は存在します。来場者から頂いたアンケートの中には、『気持ち悪かったけど、少し好きになった』『こんな生き物がいるのは知らなかった』など、どれも今回の生き物たちにとって嬉しいコメントが多く、(中には”キモい!”とだけ書かれたものもありましたが…)団員たちに少しではありますが、恩返しができたのではないかと思います。
ナイトZOO開催中の様子
総来場者数約48,000名というたくさんのお客様に、暗闇のサーカス名物(?)『ゾワッ』と体験をしていただき、本当に感謝しています。企画展を通して生き物を知ってもらい、興味を持ち、学び、さらに興味深くなる、そのことが今後の彼らの運命に大きく関わることではないかと感じています。『身近な生き物たち』身近でありながら遠ざけてしまう存在でも、少し立ち止まって彼らに目を向けてみてはいかがでしょうか・・・ゾワっ! ほら、今もあなたのすぐそばに・・・。
(ひろたに あおい)
(編集部注)「ほんとに知ってる?身近な生き物たち『奇奇怪怪!暗闇のサーカス~奇蟲(きちゅう)の不思議~』」は大阪ECO動物海洋専門学校様のご協力を得て、2016年8月5日から8月21日まで、は虫類生態館(アイファー)で開催したものです。