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先日、タイの動物園に行ってきました。そこで飼育員さんとサルのご飯についてお話をしていたところ、「サルにバナナを与えるなんて、サルを殺すようなものだ。」といわれました。サルといえばバナナなのに・・と思われる方もいるかもしれません。詳しく伺うと、私達人間用に糖分たっぷりで甘くなるよう遺伝子改良されてきたバナナは動物が本来食べている野生のバナナと栄養分が異なり、与え続けると肥満や虫歯、または消化不良、下痢からくる痩せ衰えなどの症状を見せ最悪の場合は死に至たってしまうというのです。同じ理由でイギリスの某動物園がサルへのバナナの給餌をストップしたというニュースは、CNNにも取り上げられ既にご存知の方もいるかもしれません。日本でも、サルへの果物全般の給餌を停止し代わりに野菜の量をふやした動物園がいらっしゃいます。驚くことに、その後サル達の毛質が改良されより太くきれいな毛並みに改善されました。痩せすぎていた個体は体重も改善されたようです。糖分を控えたのに体重が増えるなんてと、不思議に聞こえるかもしれませんが、私達が当たり前のように、疑問もなく過去何十年にも渡って給餌してきた食べ物が果たして本当に動物の健康にいいものだったのかどうか、多くの動物園関係者が改めて動物の餌や栄養を考えるきっかけとなりました。
さて、その動物の栄養ですが、犬猫や家畜のように長年人と近い距離にいた伴侶動物・産業動物の栄養はよく研究されていてデータ量も多いのですが、野生動物の栄養に関してはまだまだ分からないことがたくさんあります。飼育下で実際何をどれだけ与えればいいのか決断するための情報量が圧倒的に足りていません。それでも、世界中の動物専門家が野生動物の血液サンプルや食べているものを分析することで、少しずつ飼育動物の栄養要求量や観察される体の不調が、これまで給餌されてきたご飯にあることが分かってきました。その内の一つが、糖質(デンプン)です。 人間の健康番組でもよく取り上げられていますが、この糖質、実は動物達の体にも悪く多くの不調や病気を引き起します。特に、今動物栄養の世界で指摘されているのは、葉っぱを主食とする動物が、飼育下で糖質を必要以上に給餌されており、それが様々な健康問題に発達してしまっているということです。彼らは胃の中に共存する微生物やバクテリアによって葉っぱを分解してもらい、その過程で発生する脂肪酸をエネルギーにして生きています。草食動物が葉っぱばかり食べて生きていけるのはこのメカニズムによるものです。野生環境で糖質を食する機会は低く、それゆえに糖質を消化吸収出来るように身体が出来ておりません。糖質を摂りすぎると、微生物やバクテリアの活動が低下し、エネルギー源である脂肪酸を産生出来なくなります。それに加え、消化管が炎症を起こし、食べたものを正常に消化吸収できなくなります。結果的に体重の減少、毛並みの悪化、繁殖力低下、下痢等の問題につながり、この状態が長く続くと、動物は痩せ衰え最悪の場合突然死してしまいます。
次の写真は、ミュールジカの反芻胃内乳頭の写真です。(乳頭という突起を多く持つことで胃の表面積を拡大し、食べ物を効果的に消化吸収します。)左は健康体の写真で、右はデンプンを多く給餌したミュールジカの写真です。健康体の乳頭は大きさもサイズも均一ですが、右は乳頭が短かかったり細かったりで炎症を起こしていることが分かります。一度このような状態になってしまうと正常の状態にはなかなか戻らないといわれており、幼獣のころから正しい餌を給餌することが、その後健康に生きていくために重要であるといえます。
追記:タイ訪問中に、野生バナナに近いと考えられるグリーンバナナを手に入れる機会があったので、現地の人達から不思議な目で見られる中思い切って食べてみました(美味しくないので誰も生で食べようとはしません)。確かに、市販で売られているものと比較してずっと甘みが少なく、水分量も少ないのでかたく、そして渋みがありました。渋柿を食べたときのあの渋さでした。もちろん美味しくありません。ただ、これが、サル達が本来野生環境下で食べているものなんですね。サルと黄色いバナナの絵もあと何年かで見なくなる、なんてことになるかもしれません―。
グリーンバナナ
(いまいふみこ)
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