2004年11月、負傷した野生のボルネオゾウを捕獲して治療する、というプロジェクトに加わったのが、私にとって動物に向き合う初めての仕事でした。本来、人間とは離れて暮らしていたゾウが、森が小さくなったために、人間の住む領域に出てきて、様々な事故を起こしていました。アブラヤシという作物を栽培するため、どんどん森を切って畑にかえていったことが元々の原因です。アブラヤシの実からはパーム油が採れ、日本でもたくさん消費されています。
このゾウのプロジェクトへの参加以外に、ボルネオ島での熱帯雨林減少の状況を調べ、生物多様性保全事業の指針を立てることも当時の私の渡航の目的でした。依頼主はサラヤ株式会社という洗剤メーカーでした。
この時の調査を元に、ボルネオ保全トラスト・ジャパン(BCTJ)というボルネオの森と生き物を守るための団体が作られました。私はサラヤの調査員として、そしてBCTJのスタッフとして、何度も現地に通い、オランウータンやサイチョウの保全プロジェクトなども実施してきました。ボルネオ島の生き物について学び、そこにどっぷり浸ることで、地球上で人間が一番優れた生き物である、などという考えはさっぱりなくなりました。むしろその傲慢さを強く感じるようになりました。
現在の感染症の蔓延(まんえん)も、この傲慢さが原因かもしれません。人間がなんの配慮もなく野生の領域に入り込むとき、それが感染症を人間界に持ち込むきっかけになってしまうということは多くの先人が警告しています。そして社会のリーダー達もそのことを知っています。それでも危険を回避するための対応はまだとれていないようです。どうしてなのでしょうか。
こんな状況を変えるために、なにか行動を起こさねばと思っている人は多いと思います。しかし、一人では何もできない。つながっていくことが大事です。動物園というのはそういう機会を私たちに提供してくれる重要な場所であると私は考えています。
(なかにし のぶお)