天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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動物園と感染症

前天王寺動物園長 高橋雅之さん

 

 「天王寺動物園は、種の保存と環境教育を主たる目的として、多くの動物種を飼育する大阪市の環境行政の一端を担う施設である。また、大阪市という大都会にあって、他の公園施設と同様、市民の憩いの場として、不特定多数の人々に開放され利用されている。さらに、植物が繁茂したオープンスペースが広く、飼育動物の餌などを目当てとした野生の鳥類などが、通常の大阪市域よりも多く見られる場所でもある。このために、鳥インフルエンザを始め感染症対策は困難な問題を数多く含んでいる。」

 以上はおよそ10年ほど前に私が中心になって作成した天王寺動物園の高病原性鳥インフルエンザ(以下HPAI)対応マニュアルの冒頭の部分です。HPAIは本来は鳥類の病気ですが、例えばブタに感染し、遺伝子が変化して新型インフルエンザに変異することや、変化しなくとも人に感染して重症化する可能性もあり、重要な感染症です。ここではお客様、動物園のスタッフ、そして飼育動物を守ることを目的としてマニュアル作りをしました。天王寺動物園は一部を除いて開放型の施設であり、渡り鳥をはじめ様々な鳥類がやってきますので、毎年、晩秋から春先にかけて、絶えずHPAIの流行期には各地の発生状況を知らせる情報には敏感になったものです。

 今、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対して世界中で戦いが続いています。ネコ科動物などの感染報告もちらほらと聞こえてきます。HPAIやSARS(重症急性呼吸器症候群)などと同様に、この病気もいわゆる人獣共通感染症のひとつであり、今後、様々な情報が知られ、ワクチンを始め有効な予防や治療方法が早くできることを祈ります。それまでは賢く恐れて、注意して暮らしたいものです。

ライオンの手術をする筆者

ライオンの手術をする筆者

(たかはし まさゆき)

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