2019年に中国の武漢で発生した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は世界中で蔓延し、本稿執筆時点で世界の感染者数が7,242,231人、日本国内では17,251人と増え続けており、今もなお終息が見通せない状況です。
この原因ウイルス(SARS-CoV-2)の動物への感染事例は香港のイヌにおける報告(3月5日)が私の知る限り初めてでした。このあと、散発的に香港(イヌ:無症状)やベルギー(ネコ:一過性の呼吸器系・消化器系症状)で、新型コロナウイルスの患者となった飼い主から感染したと思われる事例のニュースがあり、これらのニュースは報道各社で取り上げられたので、目にした方も多いと思います。
そして・・・4月5日、「ほんまか?!」と思わず声に出してしまいそうなニュースが動物園の飼育動物の感染事例でした。米国農務省(USDA)によれば、ニューヨークの某ブロンクス動物園で飼育されているマレートラ1頭が新型コロナウイルスに感染したと。これは野生動物であるトラが新型コロナウイルス感染症に罹患(りかん)した最初の報告で、呼吸器系の症状を呈するトラ、ライオンの内、トラ1頭から採取された検体で陽性が確認されたもので、その後無症状の1頭を含む4頭のトラ、3頭のライオンも陽性が確認されています。トラもライオンも同じネコ目(食肉目)ネコ科ヒョウ属であることを考えると、先例のイヌとは相違し、飼いネコも含めたネコ科の動物の新型コロナウイルスへの感受性を示唆しています。ただ、ネコ科の動物がどの程度の被感染性を示すのか?、同じネコ科でも属によって相違があるのか?、感染したネコ科動物から逆にヒトへの感染が起こるのか?、なぜネコ科の動物に感受性があるのか?など、不明な点も多く残されており、今後のエビデンスの蓄積を待つところです。
感染経路は「新型コロナウイルスに感染してウイルスを排出している飼育員から感染したものと考えられる。」と報道されていましたが、動物園に勤務するものとしては続報も含め注視していく必要がある内容です。ただ、新型コロナウイルス感染症の特徴に、「発症前の潜伏期間にある感染者からも感染が起きている」ことや「不顕性感染(細菌やウイルスなど病原体の感染を受けたにもかかわらず、感染症状を発症していない状態)が一定数認められること」があげられることから、動物由来感染症(Zoonosis)ならぬヒト由来感染症を、院内感染ならぬ園内感染として発生させることのないよう、餌調製時の衛生手袋の着用やマスクの着用、適切なタイミングでの手洗いの励行など、飼育員、動物専門員、獣医師ともども動物たちへの感染防御策を徹底しながら日々努めているところです。
(安福 潔)