天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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天王寺動物園におけるコアラの飼育30年を終えるにあたって

 昨年(2019年)の秋をもちまして、30年間の長きに渡り天王寺動物園のコアラ飼育を終えることとなり私が携わった約9年間のコアラ飼育の思い出を語りたいと思います。
まずコアラが天王寺動物園にやってきたのは1989年6月1日、当時3頭のコアラがオーストラリアからやってきました。それからピーク時には10頭のコアラもいましたが私の担当時にはアークとその子どものタラオそしてミク、クミ、アルンと計5頭のコアラを飼育していました。

 私が動物園で初めての担当動物がコアラと夜行性動物、それにレッサーパンダであり、中でもコアラについては、コアラの餌となるユーカリの樹種を覚えることから始めました。オブッサ (Co)、ゴニオカリクス(G)、カマルドレンシス(C)など数10種類のユーカリを覚えるのに数カ月かかりました。また、コアラはご存知の通りユーカリしか食べません。ユーカリは植物なので毎日安定していい状態で入荷するとは限りません。冬は寒波や雪が降って霜が降りるとパリパリになり、とても餌にはなり得ず、また夏や秋は高温からチリチリになったり台風の影響で倒れたり折れた枝から切り出したものがあったりして、いい状態を保つのはとても難しいのですが、そのような中、ユーカリ担当者とユーカリの栽培を委託している各地の人達と連絡を取り合い、状態のいいユーカリを入荷してもらう一方、整枝業者さんとも色々とコミュニケーションを図り常日頃コアラが餌としていい状態を作ってもらいながらこういったたくさんの人達の手間暇をかけてもらったおかげでコアラには美味しいユーカリを与えることができているのです。よくコアラという動物は金食い虫だとかグルメな動物でお金がかかるとあまり芳しくない話をよく耳にしますがそれはそういった人達の努力のおかげで支払う人件費や鹿児島や沖縄などの遠方からユーカリを送ってもらう輸送費であったりするので決してコアラが悪い訳ではありません。

 また、5頭のコアラの中でもアークの子ども・当時 3歳のタラオ(2009年10月生)は自分で餌をあまり食べない、つまり自力採食では生きていけないコアラでしたので飼育員が餌のユーカリを直接食べさせるハンドフィーディング(以下HF)を毎日早朝、昼間、夕方と数10分~1時間位かけて与えるのですが、入荷したユーカリを食べなければ走って園内に植えている食べてくれそうな新鮮なユーカリを選んでは少し切ってHFを行なっていたのですが、このようなことから毎日がコアラのことで頭がいっぱいでした。コアラ 館に入る際も先輩からタラオは特に神経質なので嫌な音を立てると餌を食べなくなるので音を立てるなと教わ るなどドアを開閉する際もソ~っと入るなど気を遣い、まるでコソ泥だと当初は思っていましたが、それも全てタラオに刺激を与えずなるべく自力で餌を食べてもらうためにとっていた行動でしたが、残念なこと に2013年6月23日に病気のため、亡くなってしまいました。この時、よくよく思ったのは死なせることなく、まだまだ他に方法がなかったのかと考えに考え抜いたことでした。

屋外展示場のユーカリの樹に登っているタラオ

屋外展示場のユーカリの樹に登っているタラオ

 そしてまたアークは兵庫県の淡路ファームパークイングランドの丘動物園に繁殖目的の貸借(以下BL)で送ったことから高齢個体のミククミアルン頭が日本国内では最高齢・トップ3になったこともあり、またまた3頭のHFの毎日が始まりました。そして頭に去来したのはタラオの死をムダにしてはならないとの思いがつのり、飼育時間のほぼ全てを3頭のコアラに集中させ1日でも長生きさせられるようにとの願いと同時に日本での国内・23歳11カ月の記録を塗り替えようとコアラチームの全員と話し合い、1日で長くて4~5時間HFを頑張り続けました。そしてその甲斐あってのことでしょうかミクは23歳9カ月、クミは22歳、アルンは19歳と国内最高齢の記録こそは塗りかえることはできませんでしたが3頭共ほんとに毎日頑張り通して長生きしてくれ感謝しています。また他方では、高齢個体のケアの大変さはとてもよい勉強になりました。

 その一方、アルンが最後の1頭で頑張っている頃に、淡路ファームパークイングランドの丘動物園にBLで貸し出していたアークがその子どものそらと共に当園に戻ってきてくれました。でもその頃アルンが亡くなれば当園のコアラ飼育は終わる状況でしたので、2頭が戻って来てくれたことは正に救世主の登場だと思いました。

HFで食べさせている筆者とアーク父ちゃん

HFで食べさせている筆者とアーク父ちゃん

 そして、このアークと若いコアラのそらが戻って来てくれたのだから、これからは生き生きとした野生本来のコアラの素晴らしさをたくさんの来園者に見てもらいたいとの思いで“コアラはコアラらしくプロジェクト”という名のもと、飼育員、獣医師、ユーカリ担当者が力を合わせてコアラを屋外でのユーカリの大木で朝から夕方まで過ごしてもらうということを行いました。ですがもちろん、最初は様々な弊害や心配事などたくさんありましたが、少しずつ小さなことからコツコツとではないですが様々なことをクリアしていき屋外展示での飼育が実現しました。

スコープ越しのアーク父ちゃん

スコープ越しのアーク父ちゃん

ユーカリの森で暮らすアーク父ちゃん

ユーカリの森で暮らすアーク父ちゃん

 しかし、アークの子どものそらは香港オーシャンパーク(香港海洋公園)にBLで貸し出されましたが1年後に病気で亡くなってしまい、絶望感と同時に送り出してくれた淡路ファームパークイングランドの丘動物園さんに申し訳ない気持ちでいっぱいでした。

 ですが下を向いてばかりでは前進はないとの思いから、その思いをアークに捧げて最後まで頑張ってもらおうと今まできましたが、昨年の秋、私にとっては悲しいことにアークがイギリスのロングリート・サファリパークに行くことが決まりました。アークのイギリスへの輸送は前回、そらを香港へ送った時と同様、私が同行することになりましたが、オーシャンパークの飼育員の皆さんにコアラの飼育方法などをうまく伝えらず、結果的にはそらを亡くした経過がありましたので、長距離・長時間輸送などの苦しくも辛い状況下を乗り越え、自分の持っているすべてを出し切り、なんとかアークにHFなどを行いながらイギリスの環境に慣れさせようとしながら、ロングリート・サファリパークの飼育員さんにも日本での飼育技術を伝達するため毎日コミュケーションをとりつつアークがベストの状態であるよう最大の努力を傾けました。あとはアークが長寿記録を塗り替えて長生きして、子どもも授かってくれればと切に願っています。

⑤	輸送箱に止まり木として設置していった天王寺動物園でお気に入りだったユーカリに座って少し落ち着いてユーカリを食べてくれているアーク父ちゃん

輸送箱に止まり木として設置していった天王寺動物園でお気に入りだった
ユーカリに座って少し落ち着いてユーカリを食べてくれているアーク父ちゃん

 今、コアラの生息地であるオーストラリアが、昨年の9月頃から史上最悪な山火事・森林火災に見舞われたことは皆さんもご存知であると思います。私自身もその年の11月にコアラを山火事から助け出した勇敢な女性の映像を見て心を打たれましたが、この山火事は地球温暖化が原因とされ、ダイポールモード現象によるインド洋の海水温上昇により発生した上昇気流が乾いた空気となって、インドネシアからオーストラリアに吹き降り、乾燥と真夏の熱波で気温上昇を引き起こし、特にユーカリの木は油が多くあるため燃えやすく延焼被害が拡大されたとされています。この山火事でコアラだけでなく様々な野生動物も命を落としてしまいましたが、今、私たちができることは支援の輪を広げるのはもちろんですが、この日本でも地球温暖化について真剣に取り組まなければオーストラリアのコアラばかりではなく、たくさんの動物たちがこの世から姿を消し二度と見られなくなるということを今一度考え直さなければならないと思います。
最後になりましたが、コアラ飼育30年を終えるにあたってたくさんの人達のおかげで今があったと思っていますしすべてにおいて関わり支えてくれた人たちに感謝の言葉しか見当たりません。長きにわたり本当にありがとうございました。

(辻本 英樹)

 

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