天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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動物へのあふれる思いを科学の力で正しく伝える

日本動物園水族館協会 専務理事 成島 悦雄さん

 

 近年、動物の福祉が注目されています。動物の福祉というと何やらむずかしそうですが、動物が幸せにくらしているかどうかといいかえることができます。幸せの状態は幸せから不幸せまでさまざまですが、福祉の状態も良いから悪いまでさまざまです。

 ゾウを例に考えてみましょう。野生のゾウは雌を中心とした群れを作ってくらしています。一方、日本ではゾウが1頭しかいない動物園は珍しくありません。雄・雌の複数頭でくらしていても、その後、亡くなったため1頭で飼われている例がほとんどです。野生の状態をみれば、少なくとも4~5頭のゾウが一緒にいることが望ましいと考えられます。ゾウにとって良い福祉状態です。

 しかし、1頭でくらしていても毎日世話をしてくれる飼育係がいれば、その人を自分の仲間だと思い、私たちが考えるほどゾウは孤独を感じていないようです。もちろん、一生けんめい心をこめて世話をすれば1頭でもよいということにはなりません。時にケンカをしても自分と同じ仲間と一緒にいる方が自然です。ゾウだけでなく動物園でくらす動物ができるかぎり野生でいるときと同じような行動ができるように、群れをつくる動物は群れで、単独でくらす動物は単独で、樹上でくらす動物には立体的に活動でき、トンネルを掘る動物には床を土にするといったように、飼育環境をととのえることが大切です。

 また、動物園の動物はお客さんの目にふれる昼間の倍の時間を屋内施設で過ごしていることも忘れてはいけません。屋内での時間を楽しくくらせる工夫が必要です。種の保存や環境教育が動物園の大きな使命となっていますが、不幸せな動物を見て環境教育ができるでしょうか。これらの活動は動物園動物が幸せにくらすことのうえに成り立つものです。基本を忘れて種の保存活動はできません。動物園で働くスタッフと共に動物園動物を幸せにする工夫を重ねながら、日々の仕事に向き合っていきたいと考えています。

(なるしま えつお)

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