動物専門員だより②
食べるって簡単?難しい??
みなさん「食べること」はお好きですか?私はごはんを食べているときがすごく幸せです。多くの動物も食べるのが大好き。野生の動物は本来、食べ物を探す・獲る・食べる・排便をするなど、食に関わる行動に多くの時間を費やします。広大な土地を歩き回って食べ物を探す、何度も失敗しながら狩りに挑むなど、とても大変です。動物園で暮らす動物はどうでしょう?飼育下では、目の前に出てくる切り分けられた餌を動物はすぐにぺろりと食べてしまいます。「食べること」が簡単なんです。この話を聞いて、『動物園の動物は楽でいいなぁ。』と思われることがあります。しかし、実際には、多くの動物が食べるための進化をしているので、この能力が使えないとさまざまな問題が生じてしまいます。運動不足や常同行動、虫歯や消化不良など、体や心にトラブルが出ます。近年、海外の研究で、飼育下動物の「食べること」を野生下に近づけることで、体のトラブルはもちろん、社会性などの問題も解決することが分かってきました。食べ物の種類・食べ方・食べるタイミングなど、工夫できることは多岐に渡りますが、これらはまだ世界的にも新しい取り組みです。天王寺動物園でも、こんな取り組みを少しずつ取り入れていきたいと思います。
マレーグマが時間をかけて餌を食べる仕組み
(棚田 麻美)
企画展「戦時中の動物園」
天王寺動物園では毎年、終戦記念日の前後2週間程度の期間で、企画展「戦時中の動物園」を開催しています。戦争中に動物園で起こった悲しい出来事についての展示です。
1915年(大正4年)に開園した天王寺動物園は1934年(昭和9年)には年間250万人ものお客様を迎える施設となっていました。しかし1939年(昭和14年)に第二次世界大戦、1941年(昭和16年)には太平洋戦争が勃発し、天王寺動物園も戦争に巻き込まれていきます。1943年(昭和18年)7月に同盟国ドイツの動物園が空襲によって8割がた破壊されたというニュースが入ってきました。もし日本でも同じように空襲で動物園が壊されてしまったら、ライオンやトラなどの猛獣が町中に逃げ出してしまうかもしれません。そうなる前に動物園で飼育している猛獣を殺さなければなりませんでした。まずは東京の上野動物園で猛獣たちの殺処分が行われました。つぎは天王寺動物園です。猛獣たちに毒入りの肉を与えて殺すことになりました。毒入りの肉を食べなかった一頭のヒョウは、飼育員が首にロープをかけ絞め殺すことになりました。手塩にかけて育ててきた動物たちを、みずからの手で殺さなければならなかった飼育員の心はどれほど傷ついたことでしょうか。
このような悲しい出来事を二度と起こさないためにも、戦争のない平和な世界をみなさんと一緒に考えていきたいと思います。
戦時中に殺されたヒョウの剥製
(越智 翔一)