天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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「ふれあい」って?

 「“チョコエッグ”ってご存知でしょうか?」自分の仕事を説明する時に、よくこのように尋ねてしまいます。多くの方は知っていて「たくさん集めましたよー」「包んであるチョコを、どうしようかと思って冷蔵庫の中に溜めこんでましたよー」って話になります。「日本の動物」チョコエッグはブームになりました。このお菓子、当時を知っている方には話が早く、あの手の平に乗る小さな動物フィギュアを造るのが私の仕事でした。「塗装」を担当していました。塗装といっても、ただ赤、青、緑、黄色、茶色、灰色に塗るだけではなく、いかにその動物に“見える”ようにするか。“化粧”に近い仕事かもしれません。また、チョコエッグは大量生産します。油絵や水彩画、写実画のように微妙なグラデーションは表現できません。

 そこにふっと奇妙なたくさんのニワトリが描かれた日本画を思い出しました。クッキリとした色分けだが細かく、違和感なく境界線を描くことで「リアル」を追求しており、そのうえ卓越した存在感。それは伊藤若冲の軍鶏図でした。それを手掛かりにチョコエッグ日本の動物シリーズを塗装、化粧を施していきました。トライアンドエラーはあったものの、チョコエッグの日本の動物は出来ていきました。もちろん、師匠である松村しのぶ氏の指導もありあり、その技術は昨年9月に発売開始された天王寺動物園公式カプセルフィギュアシリーズにも受け継がれたと思います。その後、長い時間が経つと、伊藤若冲のニワトリのあの異様な存在感が気になり、いつかは立体物にしたいという欲求が高まってきました。チョコエッグブームも去り、Gallery Cafe *Kirin*で行われた爬虫類雑誌「ビバリウムガイド」の幻想ビバリウム古代生物の展示会・「モノノケ堂蒐集」も終わり、時間が出来てきたところで自分の力を試したくなりました。そこで、この伊藤若冲のニワトリの製作を決め、一昨年の8月に天王寺動物園で開催されたイベントで展示させていただきました。

 立体物の製作考。奥行きのない世界、二次元の世界を奥行きのある世界・三次元に導き出すのは実は思っている以上に不思議な行為です。単純に長さが2倍になると体積は8倍になります。足し算でなく世界は掛け算になります。もう一つ単純に。正方形も立体になると、立方体になります。サイコロでもご存知の通り、面が6つ6倍の面積を扱うことになります。つまり立体物は二次元イラストの6倍の労力が必要になります。

 そして、実際の製作方法。まずは作る動物を決めます。簡単、難しいは置いといて、まずは好きな動物の事を考えよう。ボーっとしている時にふと思い出すような動物。そんな動物は人より詳しいでしょう。そして、資料を集め読みより詳しくなりましょう。日本一、いや、世界一その動物に詳しくなりましょう。(もちろん自負でも可)骨格図を手に入れて、それに合わせて金属線で骨格を作ります。大まかな大きな塊の肉付けを粘土でします。関節付近は隙間を開けて可動できるようにします。ポーズをつけ立たせてみます。デッサンが正しければ立ちます。正しくなければ、倒れます。立つまでポーズをいじってみましょう。カッコよく、意味あるポーズができたら関節を埋めてガッチリ固めましょう。肉を盛り付けカッコいいシルエットができたら、皮膚、鱗(うろこ)、羽、毛を流れに沿って、入れていきましょう。流れに沿うことが肝です。全体を見ながら最初に思い描いたことを忘れずに進めて行きます。しかしそれでも最初に思い描いたことよりも、進めていくうちに何かが見えたら大胆に変えてしまった方がいいかもしれません。何にしても、完成した後に後悔しないように。

初公開。伊藤若冲のニワトリの頭骨。

初公開。伊藤若冲のニワトリの頭骨。

 仕上げに塗装です。ここで生かすも殺すもが出てきます。最初に書いた通り、実は塗装は化粧です。欠点を隠すこともできるし、長所を伸ばすこともできます。これはこれといったうまい方法が見つかりません。観察と経験しかないかもしれないです。たくさんの動物と造形物を見て、たくさんの物を作るしかないかもしれません。今はネットで多くのモノが見られます。みんなが常にカメラを持ち歩き、誰でも、ネットにアップして人々に見せることができます。これはちょっと前から考えれば奇跡です。

ニワトリの骨格に肉づけします。
鳥の唐揚げが食べたくなります(笑)

ニワトリの骨格に肉づけします。 鳥の唐揚げが食べたくなります(笑)

羽根をつけて試行錯誤中。
つじつまを合わせるのが大変。

羽根をつけて試行錯誤中。 つじつまを合わせるのが大変。

なんとか完成です。

なんとか完成です。

 「南天雄鶏図」。若冲のニワトリも骨、骨格から作りました。若冲の絵画の縮尺に合わせて比率を変えていきます。それに上記のように肉付け、羽毛をつけていきます。絵画と睨めっこしながら平べったい二次元をどのように捉え、映すか考えつつ。一気に形を作ろうとせずに、骨、肉、羽毛と段階をつけて象(かたど)っていきます。もちろん、絵画にはない裏側も同時に「こうであろう」と想像しながら作っていきます。どこかおかしい所はないか注意深く進めます。

形ができたら、塗装です。一段と目を引く顔、冠、耳朶(みみたぶ)、肉髯(にくぜん)の赤がポイントです。ただそのままの塗料の赤でなく、蛍光塗料も使ってみましょう。羽根の塗装も羽軸、模様、縁取りなど段階をふんで描きます。全て揃ったら完成です。作業としての作り方は上記の通りです。

 でも、実は作品づくりにもう一つ大切なことがあります。人との関わりです。師匠の松村しのぶ氏の作品がなければ動物造形というジャンルもなかったかもしれません。もちろん松村さんの指導があってのことであり、また前記の爬虫類雑誌「ビバリウムガイド」の編集長、冨水明氏による発案の連載「幻想ビバリウム」がなければ僕の作品群は存在しなかったことと思います。またGallery Cafe *Kirin*のオーナー東芝泰子さんのお陰で僕個人の展示会「モノノケ堂の不思議動物蒐集(しゅうしゅう)」もできましたし、たくさんの方々に見ていただきました。そして、一番好きな代表作であるマチカネワニを通じて大阪大学総合学術博物館の伊藤謙さんと出会えたのも大きく、自分の作品はマニアの作品と思ってましたが、そうではないと気付かれされました。そして、また伊藤氏は伊藤若冲の遠縁の親戚です。ご先祖様にもお世話になりました。

 どんな作品にもクエッションとアンサー両方が入ってます。それは人と関わりがあったればこそのことです。

(ふるた ごろう)

【編集部注】
チョコエッグ:フルタ製菓が発売した玩具付きチョコレート菓子(食品玩具=食玩)で中が空洞になった卵型のチョコレートの中におまけの玩具が入っている。1999年9月に発売された日本の動物シリーズ第1弾は海洋堂所属の松村しのぶ氏が企画・原型を作り、今までの食玩とは段違いの造型クオリティで食玩ブームの火付け役となった。

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