クマたちのエンリッチメント
私は2017年4月にクマ担当になりましたが、クマの仲間は特に*常同行動 が出やすい動物といわれており、これらを少しでも減らすことを目標に飼育してきました。
ホッキョクグマは野生下でも物を使って遊ぶことが知られており、当園のイッちゃんもカゴを被ってわざとまわりが見えにくい状態にして、プールの中にブイを沈めたりして遊びます。その様子はたいへんユーモラスですが、同じオモチャだといずれ飽きてしまうので不定期に新しいオモチャを投入する必要があります。オモチャの種類は多いほどいいのです。そこで「天王寺動物園応援団」制度で集まった資金(以下CS基金)で大きめのブイを買ってもらいました。まん丸のブイはそれまでにもたくさんいただいたりしていたのですが、このブイはそれらのブイよりも大きく楕円形をしており、イッちゃんにとっては新鮮だったためとても激しく遊んでくれました。今でもお気に入りのオモチャのひとつです。
寄付金で買わせていただいたブイで遊ぶイッちゃん
またマレーグマ、ツキノワグマ、メガネグマの場合は激しく遊べるほど運動場が広くなく深いモート(堀)に囲われているため、オモチャなどもすぐモートの下に落としてしまうので、それよりも餌を時間かけて食べてもらう方が有効なのでブイに穴を空けて小さく切った餌を入れたフィーダー(給餌器)が有効なのですが、リンゴなどをいっぺんに小さく切れる道具もCS資金で買うことができました。これで作業の効率がよくなり一日に何度もエサをセットできるようになりました。
運動をしながら時間をかけて餌を食べるマレーグマ
エンリッチメントを実施する場合は、きちんとデータをとって実施前と後でどう変化したのかをちゃんと調べる必要があります。そうしないと、実は効果が出ていないのにやったつもりになってしまう、自己満足に終わってしまいます。マレーグマのマーズはエンリッチメントなしだと展示時間中の80~90%が常同行動ですが、エンリッチメントを実施することで40%くらいに減少します。それでも多いですが・・・
またデータをとることで今まで気付かなかったことがわかったりもします。例えば前出の「ホッキョクグマのイッちゃんは夏より冬の方が常同行動が出やすい」とか「ツキノワグマのコテツは春先から夏にかけて常同行動が増える」とか。
今はなかなか時間がとれず大雑把なデータしか取れていませんが、今後は実習生や各種の大学の方々などに協力してもらいながらもっと詳しいデータをとり、動物たちの暮らしをよりよくしていくために努力していこうと思います。
(油家 謙二)
*常同行動:動物園のように限られた空間で生活する動物たちには、自然の中でくらす野生動物には見られない、同じところを行ったり来たりしたり、首を左右に振り続けるといった同じ動作を反復して繰り返す行動をすることがあります。この行動を常同行動といいます。