天王寺動物園「なきごえ」WEB版

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動物へのあふれる思いを科学の力で正しく伝える

国立科学博物館 地学研究部生命進化史研究グループ長 甲能 直樹さん

天王寺動物園で保管されていたニホンアシカの剥製と私

 

 日本各地の動物園で大人気のカワウソ。この愛らしいカワウソの仲間は、かつて日本列島にもたくさん生息していて、ニホンカワウソの名前で親しまれていました。でも、彼らが私たちの前から姿を消して、かれこれ40年が経とうとしています。そんなこともあって、一昨年長崎県の対馬でカワウソの生息が確認された時は、すわ「38年ぶりの再発見!?」かと大きなニュースになりました。その後に行われた遺伝子調査の結果、このカワウソたちは大陸から偶発的に流されてきたらしいユーラシアカワウソとわかり、「なぁんや」と思われた方もいることでしょう。

 でも、日本列島のカワウソがいつどこからどのようにやってきたのかを研究している私にとっては、彼らがこの現代に50kmも離れた大陸から大海原を越えて対馬までやって来たということが、まさに驚くべき事態でした。というのは、最近の遺伝子研究の結果から、カワウソが日本列島に渡って来たのは130万年以上も前のことで、その後再び渡って来た時ですらはるか11万年以上も前のことだったとわかっていたからです。日本列島は今でこそ離ればなれの島々ですが、氷河期には海水が氷となって海面が下がり、ごくたまに大陸と地続きになって、幾多の哺乳類が大陸から渡ってきては絶滅しました。でも、たとえ地続きにならなくても、カワウソの住める豊かな自然がありさえすれば、彼らは海を越えてでもこの日本列島に三たびやって来てくれることを、今回の出来事ははからずも証明してみせたのです。

 天王寺動物園には、昭和初期(1930年代)に飼育されていたニホンカワウソと思われるカワウソの剥製が保管されています。もし剥製の遺伝子を調べることができれば、このカワウソたちもいつごろ日本列島へと渡ってきたのか、きっとわかることでしょう。こうして渡ってくるカワウソたちが、いつの日かまた日本列島の津々浦々(つつうらうら)で普通に見られるようになってくれたら、こんな嬉(うれ)しいことはないですね。

(こうの なおき)

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