天王寺動物園「なきごえ」WEB版

なきごえ 2018年07月号 Vol.54-03

動物を解剖してわかること、わからないこと。

 動物は、必ずいつかは死にます。動物園の獣医師の大事な仕事の一つに、死んでしまった動物の解剖があります。

5月24日に死亡したキリンの子どもの解剖

5月24日に死亡したキリンの子どもの解剖

 

 動物の内臓の状態などを確認し、死んだ原因を調べるのです。環境や餌に問題があれば改善しなければなりません。また、重要なのは「重大な感染症」かどうかの見極めです。重大な感染症、となれば同居していた動物に予防的に薬を投与したり、獣舎全体を消毒したり、人間にもうつる病気でお客さんにも危険があれば展示を中止にしたり、と大掛かりな対応が必要となります。

 ただ、この「重大な感染症」かどうか、というのは臓器を見るだけではわからないことが多いのです。重大な感染症の一つに、「結核」があります。結核にかかった動物には、多くの場合肺や肝臓、脾臓など、複数の臓器に白い点々ができています。この白い点々は、菌を閉じ込めようとする体の反応なのですが、これがあちこちにあるということは、血行に乗っていろんな場所に細菌が移ってしまったということです。しかし、結核菌以外の細菌やウイルスが原因でこの白い点々ができることもあります。細菌検査に出し、原因菌を調べてもらわないと、結核かどうかはわかりません。ほとんどの場合、結核ではないのですが、万が一ということもあるので、検査結果がでるまでは厳重な態勢を取ります。

 また難しいのは、腫瘍(ガン)でもいろいろな臓器に白い点々ができることです。この場合は腫瘍化した細胞の集まりが白い点に見え、あちこちに転移していろいろな臓器にできる、という状態です。この2つを見分けるのはとても難しく、検査依頼して病理医に顕微鏡で見て診断してもらうことになります。ただ、顕微鏡で見てもらったら何でもわかるわけではありません。病変がひどすぎるところを検査に出すと、変化しすぎて原因がわからないことがありますし、逆に軽めのところを出すと実際より「軽度」と診断されてしまいます。

グリーンイグアナの肝臓の顕微鏡写真、連なった真菌(カビ)の菌糸(矢印)

グリーンイグアナの肝臓の顕微鏡写真、
連なった真菌(カビ)の菌糸(矢印)

 

 解剖し、細菌検査し、顕微鏡の検査までしても、なぜ死んだのかわからないこともあります。すべての臓器がきれいだったり、あちこちに異常はあっても、「これでは死なない」状態だったり。でも、現実にその動物は死んでいるわけで、頭を抱えてしまいます。

 最近は、「眼房水」の検査も取り入れ始めました。血液が固まってしまっていても、目を満たす「眼房水」なら採取できることが多いからです。血液検査と全く同じとはいきませんが、死因を知る大きな手掛かりになります。

 

(恒川 優子)

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