天王寺動物園「なきごえ」WEB版

なきごえ 2018年07月号 Vol.54-03

高齢のチュウゴクオオカミ、チュンサンの隠居生活について

 天王寺動物園ではチュウゴクオオカミを現在11頭飼育しています。今年の3月15日に、現在のチュウゴクオオカミファミリーの基礎を築いたチュンサン(雄)の相方のユジン(雌)が亡くなりました。

展示場でのチュンサンとユジン(2017年11月29日撮影)

展示場でのチュンサンユジン(2017年11月29日撮影)


チュウゴクオオカミの チュンサンユジンは夫婦ですが、繁殖制限をしていたので発情期は別居させ交互に展示室に出していました。しかし、この4月からは同居を予定していたので3月12日の休園日に試しに同居をさせることにしました。ユジンはいつものように朝起きるのは時間がかかりましたが、同居は何の問題もなく行うことができました。このときはこれがチュンサンユジンの最後の同居になってしまうとは想像もしていませんでした。休園日の1日だけでしたが、最後に2頭一緒に仲良く過ごしてもらえたことが、チュンサンユジンの気持ちに少しでも寄り添えたように感じてなりません。

寝室でのチュンサンの寝顔(2017年10月7日撮影)

寝室でのチュンサンの寝顔(2017年10月7日撮影)


通常、寝室のある動物舎の動物は開園日には展示のために寝室から展示室や展示場に出しますが、ユジンは亡くなる数日前から、収容時に寝室に帰ってくるのに少し時間がかかったり脚のふらつきや、脚に力が入っていないと感じることがあり、朝も寝たままで起きるのに時間がかかったりすることがありました。しかし展示室には出てくれていましたが、最後は展示室に出すことができなくなり、治療に専念せざるを得ない状態でした。

 ユジンが亡くなってから、オオカミ舎の現状を考えると、チュンサンはこの時点で15歳と高齢だったので、このまま展示を続けるべきかどうかということが問題でした。確かにチュンサンは他の若いオオカミと比べると夕方の給餌の際も餌を食べるのに時間がかかったり、換毛についても抜けるのが不規則で時間が掛かったりしていましたが、展示室に出すこと、寝室への収容には問題ないと判断していました。しかし高齢のチュンサンに衰えがあることは実感していました。これから暑い時期を迎え、開園時間の間、展示室に出しておくのは体力的にもかなりの負担、精神的にも大きなストレスになることは間違いないことです。そして無理を強いることにもなるのではと考えました。

 同じ飼育班の飼育員らと相談した結果、チュンサンはオオカミ舎のバックヤード(以下BY)でゆっくり隠居生活をしてもらうという結論になりました。BYには寝室があり、その向こうに非公開の予備室があります。予備室にはプールもあり、飲水や水浴びもできるようになっています。寝室と予備室の扉は開けたままにしておくことができるので、チュンサンが自分の意思で自由に出たり入ったりすることができます。高齢のチュンサンにとっては、今はその環境が一番良いと感じたのです。

バックヤードでのチュンサン(換毛中)(2018年6月5日撮影)

バックヤードでのチュンサン(換毛中)(2018年6月5日撮影)


 寝室も2部屋使い、春とはいえ夜は冷える時期だったので、1部屋はフロアヒーター(床暖房)をいれて、もう1部屋はフロアヒーターを切って、チュンサン自身の意思で自由に移動して寝る場所を選択できるようにしました。既存のオオカミ舎の設備上の限界もあるので、現状でできる最善の方法を考えてチュンサンの隠居生活で少しでも体力の負担が抑えられ、ストレスのかからない住み良い環境にできればと考えました。しかし、この時点ではまだチュンサンは移動前なので、実際に移動した結果、その生活環境が気に入ってもらえるかどうかはわからないので、不安があったのは事実です。

 チュンサンを展示していた展示室には、BYに居るチュウゴクオオカミのララ(雌)を展示することになりました。ララはオオカミ同士の闘争によって大怪我をして長い間1頭でBY暮らしをしていました。BYではものすごく人懐っこく、掃除用のホースでの水遊びやボディタッチをしてもらうのが大好きなオオカミだったので、展示室にいるほうが来園者の方々からも見てもらえて、人懐っこいララも喜ぶだろうと色々考えた結果でした。そして休園日にチュンサンララの入れ替えの移動が無事に終わりました。

 その動物の命の尽きる終わり近くまで、展示室に出てもらうべきか?元気なうちにBYに下がってもらい、余生を過ごしてもらうべきか?どちらかの選択をするのは本当に難しい問題ですが、そのどちらの選択肢にも間違いはないと思います。命の尊さを知ってもらい、ありのままの姿を見て感じてもらうことも、大切なことだと思います。飼育スペースや設備などの関係で、BYに移動させたくても移動させるのが難しい場合があるのも事実です。今回はBYの空きもあったので、高齢のチュンサンはBYで隠居生活をして過ごしてもらうという選択をしましたが、引き際は本当に難しいことだと思いました。しかし、今感じることは、余生をBYでのんびり、マイペースで過ごしているチュンサンを日々観ていると、今回のこの選択は間違いではなかったと感じています。

(大城 賢次)

チュンサン(雄)のプロフィール
2002年4月12日 中国の上海動物園生まれ
2006年3月17日 来園

 


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