身近にいるキジの仲間
ニワトリのマサヒロ
私たちの最も身近にいるキジの仲間といえば、皆さんは何を思い浮かべるでしょうか?おそらくニワトリではないでしょうか?
人が生活していく中であまりにも溶け込みすぎているため、あまり意識されていないのかもしれません。串に刺されて直火で香ばしく焼かれた焼き鳥であったり、ニワトリが産む卵は、卵焼きや目玉焼きになり、おやつなどではカステラやクッキーにも使用されていて、もうここまでくるとニワトリの存在はだいぶ薄れてきます。昔は自宅の軒先や庭で放し飼いされている光景が大阪でもあちこちで見ることができたようです。しかし、今ではほとんど見かけなくなりましたし、小学校などでもほとんど飼育しなくなってきているようで、ニワトリ自体をあまりみかけなくなりました。そもそもニワトリは人間が作り出した家禽であり、その昔、東南アジアの熱帯地域のジャングルに生息しているセキショクヤケイを家禽(かきん)化したものだと考えられています。
天王寺動物園のキジを紹介
野生ではどのようなキジの仲間がいるのか、天王寺動物園で飼育している10種48羽のキジ類の中からいくつかを紹介したいと思います。
ニホンキジ(日本)
天王寺動物園が飼育するキジのほとんどが外国産が占める中、唯一国産であるニホンキジをまずはじめに紹介します。
ニホンキジ(雄)
キジ舎では雄と雌をペアで2羽展示しています。日本の国鳥であるニホンキジは昔話「桃太郎」にも登場しています。かつて、1万円札の裏面に印刷されていましたが、2004年から平等院の鳳凰(ほうおう)像に変更されていたそうです。
このペアの雌はかなりの高齢で、ここ数年は産卵もしていません。そして雌の首周りの羽が光沢を帯びて雄のようになりつつあります。この現象は雌の繁殖機能が終わりを告げていることを意味しているようです。ある文献では「雌キジには時に雄化羽色のもの(たぶん老化)がでます。」と記載されており、今後どのように変化していくのかを大変興味深く日々観察しています。
首周りに雄化羽色が出てきたニホンキジの雌
そして、このペアの息子がキジ舎とは別の場所で展示されています。それは“鳥の楽園”という日本でも最大級のバードケージに“ノブナガ”という愛称で放鳥されました。広いケージ内を足早に走るニホンキジは野生を感じさせてくれます。しかし人前に現れることがあまりないため、“鳥の楽園”にニホンキジがいることはあまり知られていません。
鳥の楽園にて、餌台に立つニホンキジのノブナガ
コサンケイ(ベトナム)
次に、コサンケイを紹介します。ベトナム中部に生息し、戦争で森林が大きな被害を受け、その後も開発による伐採などにより生息地が破壊されて生息数は激減し、絶滅危惧種に指定されています。現地では2000年を最後に野生個体の生存が確認されておらず、野生では絶滅してしまった可能性もあるといわれています。雄は青みがかった羽で顔の赤い皮膚の部分が広く、雌は茶色っぽい羽で見分けることができます。
そして今年も6羽の雛(ひな)が4月16日に孵化(ふか)しました。キジ類の成長は本当に早く、孵化(ふか)後3カ月を過ぎようとした頃には羽の色に変化がみられるようになり、今では雄と雌の違いがはっきりと見分けることができるまでになりました。ここまで順調に雛(ひな)が育つ理由は、親鳥がしっかり子育てしているからです。雛(ひな)用に刻んだ青菜を置くと、親がつついてほぐして食べやすくしたり、くわえて雛(ひな)の前に落として採餌(さいじ)を促したり、さらには口まで運んで食べさせてあげている姿は微笑ましい限りです。しかも、下の写真を見ていただくと雄がせっせと雛(ひな)に餌を与えて育児に協力しています。野生では雄が育児参加することは珍しいようで、飼育下ならではの光景ではないでしょうか。しかしこの雄は食卵癖があり、雌の抱卵中に卵を見つけるとつついて食べてしまうのですが、今年は雌がしっかり卵を守り抜いたようです。
雛(ひな)に餌を与えるコサンケイの父
今では雛(ひな)たちは順調に成長しており自分でしっかり採餌しています。そして今後気を付けなければいけないのは雄どうしの闘争です。今年生まれた雛(ひな)は雄が3羽、雌が3羽でした。羽の色を見れば一目瞭然です。
ということで雄を1羽ずつ個別に飼育する必要があり、別居させるタイミングが遅れてしまうと弱い個体は殺されてしまう可能性があるので要注意です。
ニジキジ(ネパール)
そして最後になりましたが、われわれ飼育員が展示場にて清掃や給餌(きゅうじ)作業をしていると、キジを観察しているお客様の声が自然と耳に入ってきます。「うわ!めっちゃきれいやん!」といちばんよくいわれているのはやはりニジキジではないでしょうか。この鳥はネパールの国鳥に選ばれています。
ニジキジ(雄)
雄の翼は青・紫・緑の羽があり、太陽光に照らされて虹色に金属のように光り輝きます。冠羽も美しく青緑色に輝きます。雄と雌をペアで2羽展示しています。写真は雄で、換羽のため少し首の羽が抜けています。
今回紹介したキジ以外にも美しいキジの仲間を展示しています。そして来年の繁殖シーズンにはかわいい雛(ひな)の姿をご覧いただけると思いますので、そのおりにはぜひキジ舎をのぞいてみてください。
(河合 芳寛)