新米ゾウ係糞闘記No.1


 “新米ゾウ係糞闘記”を連載していた西村主任が、なんと今やゾウチームのリーダーとなり“ベテランゾウ係“になってしまったので、2015年4月よりゾウチームに加わった2人の飼育係が西村主任お得意の「むちゃぶり!」によって継承することになりました。ということで今後ともよろしくお願いします。
そしてこのたび光栄なことに歴史ある天王寺動物園でのゾウ飼育係の歴代記録を更新してしまいました。なんとゾウ担当の新人としては最高齢の40歳でした。体力や反射神経などの衰えを感じながらも、一日でも早く一人前のゾウ係になるために寝ても覚めてもラニー博子のことを考え修業の日々を送っています。天王寺動物園の飼育方法は直接飼育を採用しており、直接ゾウの体に触れて健康管理を行い、時間をかけて飼育員とゾウとが信頼関係を築いていかなければならないのですが、一人前に作業が出来るようになるまで早くても5年はかかるというのです。そして今、ゾウ担当になってもうすぐ1年が経ちますが、できる作業も徐々に増えており、それと同時にゾウとの距離が近くなりつつあります。例えば、放飼前の寝室にて、小さく切ったリンゴを鼻へ渡して給餌します。

鼻にリンゴを渡す筆者

鼻にリンゴを渡す筆者

 3個のリンゴを手に取り、安全な位置から1つずつ鼻へ渡し、ラニー博子がそれを口へ運んで食べるのですが、ここで重要なルールがあります。それは「落としたリンゴは拾うな!」です。もし拾ってしまうとどうなるのでしょうか?ゾウは人間がか弱いことを知っています。もし普段から気に入らないと思っている獣医師、あるいはイタズラをしても叱らない(正確にはまだ叱ることが出来ない)飼育係の隙をずっと狙っているとします。そして落ちたリンゴを拾いゾウから目を離した瞬間にゾウが待ちに待った“隙”がうまれて、重さ150kgの鼻が後頭部へ振り下ろされるというのです。危険事例はだいたい魔がさした一瞬に起こることが多いと言われていて、それはゾウが常にチャンスを狙っているというのです。そして基本的には鼻や口から落ちたリンゴはラニー博子の物で、それを 拾う=奪う という思考回路であるため、とにかく拾うなという教えです。

 そして2016年1月1日、朝の作業が始まるとき先輩飼育員の尾曽さんが「今日からリンゴ口にやって」新しい作業が増える時はいつもこんな感じで突然です。こう告げられた私は「いつも先輩がやっているのを見てるし大丈夫やろ」と余裕すら漂っていました。そして給餌のため3切れのリンゴを握りしめ寝室へ向かって3歩前へ進み、真上を見上げるとラニー博子が大きな口を開けて待っています。「デカい!こんなに大きかったかな!?」  たかが3歩近づいただけで、しかも柵を挟んでいるにもかかわらず全く見え方が違うことにまず驚きました。頭では理解できているつもりでしたが改めてその大きさに圧倒されました。そして開いた口から巨大な舌が出てきて、その上にリンゴを乗せるのですが、口内の柔らかさと唾液量の多さに感激したのを鮮明に覚えています。

口の中にリンゴを入れる筆者

口の中にリンゴを入れる筆者

 このようにラニー博子の反応を見ながら先輩2人が慎重に判断して頂いているおかげで何とかここまで出来るようになりましたが、この先もたくさんの壁にぶち当たり頭を悩ませる日々が続きそうです。

 

(河合 芳寛)


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