膀胱結石摘出手術 |
手術当日、コアラを動物病院まで運び、吸入麻酔をかけて、再度レントゲン撮影を行いました。レントゲン写真に写った結石の位置を見て、再び悩みました。というのも、結石のある位置のちょうど真上に育児嚢(赤ちゃんが入り込み母乳を飲む袋)があるからです。また、育児嚢の下側には有袋類特有の袋骨(育児嚢を支える役目をするU字型の骨)と恥骨があるので、そこを切開しても膀胱までたどり着けません。結局、結石のある部分からは遠くなりますが、育児嚢の上側からアプローチすることにしました。
開腹するとその真下に膀胱が見えました。結石の刺激を受けて膀胱自体が細長く変形していたようです。膀胱を切開し、へら状の器具で膀胱の下部にある結石を引き上げるように取り出しました。摘出した結石は直径が約2センチもある大きなものでした。膀胱内を洗浄し、切開した膀胱に続いて腹壁を縫合し、縫合部を消毒してガーゼを貼りました。抗生物質を注射し、静脈点滴と吸入麻酔を止めて手術を終えました。ただし、麻酔から覚めるまで酸素吸入は続けました。2時間にも及ぶ手術の影響でしょうか、麻酔から覚めるのに約1時間かかりました。麻酔から覚めたクミをコアラ舎まで運び、展示場で輸送用袋から出すと、ちょっとふらつきながらも止まり木に登り始め、やがていつもの定位置で落ち着きました。
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手術後の管理と治療経過
手術後の管理で最も大事なことは、採食量の確保です。1日2時間以上の採食時間を目安に、不足分をハンドフィーディングで補いました。また、術後の感染を予防するため、抗生物質の注射は手術前より長めのパターンに変更しました。皮下補液、縫合部分と総排泄腔内の消毒は毎日行いました。手術後2週間を過ぎたあたりから尿中の血液量が減り始め、20日目以降からは血尿をほとんど認めなくなったので11月30日で治療を終了しました。ただし、ハンドフィーディングは、病気になる前の体重に戻すべく、その後約1ヵ月間継続実施しました。
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膀胱結石の正体と膀胱炎の原因
一般的な膀胱結石は、カルシウムやマグネシウムなどミネラルの結晶の塊です。しかし、今回の結石は、その後の詳しい検査の結果、病原菌とその周囲に付着した血球などの塊でした。つまり、何らかの原因で膀胱内に入り込んだ病原菌が増殖し膀胱粘膜を壊しつつ徐々に塊を作り、さらにその周囲に血液や結晶などが付着して結石ができたと思われます。
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コアラは膀胱炎になりやすい?
細菌性膀胱炎は原因菌が尿道を通って膀胱に入り込み、増殖することで起こります。コアラは、糞便と尿を同じところ(総排泄腔)から排泄する構造をしていること、排尿量・回数ともに少なく膀胱内の自浄作用が劣っていることなどから他の動物に比べて膀胱炎になりやすいと考えらえます。病気への対処は、早期発見・早期治療が基本です。血尿をもっと早く発見し、抗生物質の長期使用を含めた徹底した治療を実施していれば、膀胱結石を作るまでには至らず、単なる膀胱炎で治まっていたかもしれません。これらの点を反省材料にして病気の早期発見・早期治療を心がけたいと思います。 |
最後に
今回の病気の診断・治療に関してご指導・ご助言をいただきました、大阪府立大学農学部獣医外科学教室の大橋教授、大阪府高槻市東田獣医科の東田院長ならびにコアラ飼育動物園担当獣医師の皆様に深謝いたします。
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コアラの膀胱炎・膀胱結石の治療経過についてU
− 体重維持の苦労 −
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飼育課 早川 篤 |
飼育係が担当動物と接する時間というのは意外と少ないんですよ。動物園の動物はペットではありません。だからというわけではありませんが、僕は担当動物とベタベタ仲良くしないようにしています。冷静に一歩ひいた場所から彼等の健康管理や気持ちの移り変わりを知る事が仕事の大切な部分でもあると思っているからです。とは言うものの、そうでない場合もあります。
コアラってユーカリしか食べないのとよく質問されますが、答えはイエスです。しかも、人間のように食わず嫌いとかじゃなくユ−カリ以外の食べ物を口にする能力を持っていません。ユ−カリしか食べることができないと言ったほうがいいかもしれませんね。その唯一の食べ物のユ−カリが生活するギリギリの栄養しか含んでいないんです。だからコアラは無駄な体力を使わないよう眠ってばかりいるんですよ。そしてコアラが生きていく上でとても重要なのは『毎日必要量のユ−カリを食べ続ける』ことなんです
なあ〜んだ当たり前やんと思われるかもしれませんが、これはコアラにとってはすごく大変なことのようです。コアラは外見は丸くてころころしている様に見えますが、実は骨と筋肉だけなんですよ。前述したようにユ−カリにはコアラに脂肪をつけるほどの栄養などありません。だからあのフワフワの毛の下はスリムな体つきなんですよ。そんなコアラが病気になるとどうなるのでしょう。皆さんも風邪などひくと食欲が無くなるでしょう。コアラも同じです。ただ人は一日や二日食べなくても何とかなるもんですが、体力のないコアラは一日何も食べないと命取りになります。だから体調を崩したら無理にでも担当者が機嫌をとりながら少しでも食べさせ続けなければならないのです。
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昨年8月に体調を崩したクミちゃんにも4ヵ月の間担当者が交替で葉っぱを一枚一枚食べさせ続けました。目標は1日2時間です。うまく食べてくれる日もあれば全然口にしようともしない日もありました。ユ−カリにもいろんな種類があってやはり好みがあります。体調を崩すと好みもころころ変わっていきます。これは人も同じですね。毎日クミちゃんの横に行って今日はどうかなっと顔をみるとジィ−ッと見つめ返してきます(目で会話ができる野生動物ってあまりいませんがコアラはOK)「今日の調子ならこのユ−カリ食べたいんとちゃうの」と差し出したユ−カリを「しゃ〜ないな、食べたるわ」という顔で食べ始めたときなどは、飼育係になって良かったなあと嬉しくなる瞬間です。一日中ベッタリと一緒にいるのですから自然と気心が知れてきます。時にはこういう関係を持てるのも悪くはないものですね。
皆さん、元気になったクミちゃんに会いにコアラ舎に来てください。
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ハンドフィーディング(手渡しのエサやり)をしているところ |
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