〜 天王寺動物園発行情報誌 〜
『なきごえ』3月号       

   
      
第55回 WZO世界動物園機構年次総会と
カリフォルニアの動物園

       


バームスフリンクスはロサンゼルスから南東に175km離れた内陸の山間にある砂漠地をリゾート地に開発したところです。
会議場となったホテルは町の中心地からはずれ、周辺には同業のホテル、レストラン、スーパー、銀行と幹線道路がある程度で住宅は隣接しておらず、遠くに荒涼峻険な山脈が囲んでおり、静かで落ちついた環境でした。
   平成12年10月22日、アメリカへの出張命令を受け、夕暮れの関西空港を飛び立った日本航空JL60は日付変更線を越え10時間の飛行の後、ロサンゼルス空港に到着しました。ロサンゼルス空港からは国内線に乗り換えて開催地のパームスプリングスに向かうのですが、日航はアメリカの大手航空会社と違い、国際線が至近距離で国内線にアクセスしておらず、国内線は相当離れていました。
 当初、スーツケースは国内線にダイレクトにスイッチされ、体−つで国内線に搭乗できることになっていたのですが、実際はロスの国際線到着口から拙い英語で場所を確認しながら国内線までテクテク重いスーツケースを押し歩く羽目になりました。3時間の待ち時間ののち、アメリカンイーグルの42人乗り双発フロペラ機サーブに乗り換え、50分の飛行で開催地のバームスフリンクスに到着しました。
             
WZO (世界動物園機構)年次総会
 WZOの会議には31力国186名の参加がありました。実質的な会議は翌23日から26日までの朝8時半から5時過ぎまで行われました。このうちの3日は午後から動物園見学が組み込まれてあり、サンディ工ゴ・ワイルドアニマルパークヘの193kmやロサンゼルス動物園への175kmはバスによる往復移動で、昼食もパスの中で巨大な八ンバーガーをかぶりつきながら時間を節約するという八一ドなスケジュールでホテルヘの帰着が夜中の11時過ぎという日程でした。
 今年の会議で印象に残るのはやはり野生動物保護の問題がメインで、これを中心において各機関、組織、グルーブで討論がされました。ClTES(ワシントン条約)、IUCN(国際自然保護連合)、CBSG(保全繁殖専門家集団)、lZE(国際動物園教育連盟)やCIRCC(地域間保全調整委員会)の報告のほか、財務、福祉・倫理、広報、環境、教育、商業活動などの分科会に分かれ、全体会議の後、WZOの全体意見を採択していました。特に「Bushmeat Crisis」即ち、食糧としての希少野生動物が狩られる危機が大きな問題として取り上げられていました。事前に天王寺動物園からも新施設の紹介など話題提供をしようとお願いをしていたのですが、討議、発表が目一杯のため断られました。新しく会員になった動物園の紹介も簡単にありましたが、保護の実践例として台北動物園の両生爬虫類の繁殖、ライオンタマリンの保護増殖、ベネズエラ・マラカイボにおけるマナティの保護活動、タツノオトシゴやラッコの乱獲防止など誌面に書き込めないほどの各種の動物の保護活動報告がありました。
 カリフォルニアの動物園 
SAN DIEGO WILD ANIMAL PARK
(サンディエゴ・ワイルドアニマルパク)
 サンディエゴ・ワイルドアニマルパークヘは会議場のホテルからパスで3時間を費やして到着しました。期待に胸弾ませての訪問でしたが到着が3時すぎ、園内での夕方からのレセプションも用意されていたため、自由勝手に見ることもできず決められたコースを案内されるだけで残念な思いがしました。
 まず、エントランスを入って左手奥にあるコンドル・リッジ(カリフォルニアコンドルなどの展示場)は谷間に作られており、数mから10数mの高さの長いウッドデッキが空中回廊のように渡してありました。お目当てのコンドルの展示までの間には希少動物のクロアシイタチ、プレイリードック、キノポリヤマアラシの複合展示や野生シチメンチョウとミチパシリ、モモアカノスリが展示されていました。クロアシイタチはトンネル巣穴をガラス張りで断面を見せていますが、これ以外の動物はほとんど目の細かいステンレスの菱形金網に囲われていて非常に見づらく、写真撮影はどれも困難をきわめました。新しい施設なのですからちょっとした気配りがほしいところです。ビッグホーンとカリフオルニアコンドルは同居させているようでしたが、コンドルの展示の傍らにビッグホーンの朽ちた全身骨格(たぶんレプリカ)があったのは愛嬌でした。コンドルのいる岩場は本物の岩棚(擬岩かもしれない)のようで成鳥、亜成鳥、若鳥と5〜6羽が展示され、解説サインもしっかりしていました。本物のカリフオルニアコンドルを見たのは初めてで意外と大きいので感激しました。
 次に園内を1周するモノレールに案内され、ソマリノロバ、シベリアアイベックス、オオツノウシ、ガウルなどに感激しましたが、5時近くになっていたため写真も自然の色が出なく少々不満でした。下車後はレセプション会場のナイロビ・ビレッジに向かいましたが、夕暮れの中でジャイアントエランド、オカピ、マダラハゲワシをストロボで撮影できたことは楽しい経験でした。ここでは園路に急ブレーキをかけたタイヤ跡と沼に滑り落ちたランドクルーザーが展示されていたのにはアメリカ人の心憎い演出と遊び心を感じました。
サンディエゴ・ワイルドアニマルパークのコンドル・ブリッジ。高さ数メートルの空中回廊
LOS ANGELES ZOO
(ロサンゼルス動物園)
 翌日のロサンゼルス動物園への見学もバスで3時間近くかかって到着しました。ここでも夕方からの園内でのレセフションが用意されていたため余り時間がなく、6人乗りカートで案内されました。初めはカリフォルニアコンドルのパックヤードを見ましたが、域外保全というか希少動物の繁殖と野生復帰に対する意気込みを十分感じました。ここで産卵した卵は人工孵化されますが、孵化後の人への刷り込みを防ぐため、担当キーバーはパペット(コンドルに模した人形)を腕に装着し、姿を暗幕で隠して給餌するようすを実演してくれましたが、その際には足音はもちろん、話し声などは厳禁で、あえてBGMとして虫の鳴き声、葉擦れや風の音などを流すそうです。
 次に訪れたチンパンジー舎は拡張を繰り返して整備したと窺えるものですが、園路側は高さのある広い一枚ガラスを数枚使用し、ガラス面に接してアリ塚を配しています。アリ塚の中にはトレーが置かれてあり、チンパンジーが手を伸ばしてトレーの甘いペーストを舐め取るようすが見られるようになっています。チンパンジーはどれも落ちついておりガラスに突進するものや叩いたりするものはおらず、給餌やエンリッチメントが十分に行き届いているように思われました。
 次のオランウータン舎は最近新しく建てられたもので、「レッド・エイフ・レインフォレスト」という展示で、工ントランスは東南アジア風の高床家屋とウッドデッキで構成されており、放飼場はステンレスの菱形金網で囲われています。放飼場は余り広くありませんが、斜面地を利用しているため上下の運動量はあるようです。放飼場内に擬木のカズラや木の実がぶら下がっていましたが、中にナッツを入れオランウータンがそれを振って取り出すエンリッチメントの工夫がされていました。この展示のデザインはジョン・コー氏が設計したということです。ロサンゼルス動物園はこれからも順次新しい展示に切り換えて行くようで、マスタープランが紹介されていました。
エンリッチメントとは道具や装置、展示などに工夫を加えて、動物が持っている行動や習性を強化し、豊にすること
THE LIVING DESERT
(ザ・リビング・デザート)
 リビング・デザート動物園は会議場のパームスフリンクス市のはずれにある動物園で面積はべらぽうに広く480haですが、未整備部分も含んでいるため、実際に供用している部分は20ha程度でしょうか。荒涼とした砂漠のど真ん中にある動物園といった感じですが、北米、アフリカ、中央アジアの砂漠動物と植物の展示が特徴となっっています。訪問した日はハロウィーンの翌日だったかで、園内の一部は市民に開放され、飾りつけのコンテストでもやっていたのか、あちこちに箒を跨いだ魔女や案山子、おばけ、巨大なカボチャなどが電飾とともに飾り付けられていました。このことからも市民に広く愛され利用されている動物園だなあってことが推し量れます。 展示で特に興味を引いたのはイーグルキャニオンと銘うった展示で、ピューマ、ポブキャツト、カコミスルなどが擬岩と植栽を上手に使って展示されていました。また、初めて見たイワ八ネジネズミやミルクヘビには感激でした。
 また、アフリカの民俗集落を模したピレッジ・ワツツは、数棟の藁葺き泥璧の民家を粗朶(切り取られた木の枝)で囲んだ村の形態をとっており、いながらにしてアフリカの現地にいる心地よさでした。ここのゲストハウスはアンティークな調度品が備えられ、結婚式、会議、パーティーにも予約で貸し出され、大きな窓ガラス越しにヒョウの姿が見えるように造られています。もちろんレストランもスーペニアーショツフもまた、シマハイエナの動物舎もヒトコブラクダの囲い込みもすべて藁葺き渦璧鳳で、さながらランドスケープ・イマージョンそのものという感じで、よくできたゾーンでした。
 このほかサバンナのイネ科草本の間からちらっと見たチーターも自然らしく、岩山のビッグホーンも当たり前のように昔からそこに住んでいたっていう感じがしました。
教育面ではドーセント(教育ボランティア)の活躍、野外ステージでの各種動物の行動、習性を引き出したショーもよく馴致され見逃せないものでした。

 以上、たった3つの動物園の短い見学でしたが、見どころは随所に見受けられました。願わくばもっと時間があればと残念に思います。

      天王寺動物園長:中川哲男
園内は砂漠そのもの!!ここの開園時間は通常9〜5時ですが、夏場(6〜8月)は8時〜午後1時30分だそうで、真夏の砂漠の厳しさがうかがえます
女性のドーセント(教育ボランティア)が無料奉仕で貢献しています