〜 天王寺動物園発行情報誌 〜
『なきごえ』2月号       

   
      
〜希少種 シシオザルの人工哺育〜

       


昨年4月11日、シシオザルのオス
「リンタロウ」が生まれました!!

〜 2000年4月下旬撮影 〜




〜 2000年5月撮影 〜 
  
昨年4月11日、シシオザルのオス「リンタロウ」が生まれました。  母親の「ノバ」がうまく飼育出来ないため、人工哺育をすることになりました。幸いトラブルらしいこともなく、今まで順調に育っています。そこで、これまでの成長過程を追ってみることにしました。
      
3月下旬になって今回母親の腹部のふくらみが目立ってきました。出産が近いことをうかがわせています。その後さらにそのふくらみが下におりてきたので、ここ数日の間に間違いなく出産すると私たちは確信しました。
      
の動物でも新しい命の誕生は、めでたいものですが、希少動物の繁殖の成功はより以上のものがあります。
とりわけ、このシシオザルは分布地インドでの生息数が減少し絶滅の恐れがあるとして、その保護増殖のため、世界中の動物園が協力体制をとっている種類です。当園がその日本側の調整的役割を受け持っています。ですからその責任は少なくありません。もちろん、そんなことは当のシシオザルにとって関係のないことで、特別他のサルたちと違った待遇を受けているわけでもありません。そんなシシオザルですが、この出産には心配させられることが一つだけありました。実は、この母親にとっては今回が3回目の出産になるのですが、今まで子育てに成功したことがないからです。もちろん経験をふんで今度はうまくいく可能性もありますが、ダメだと判断した時には出来るだけ早く母親から取り上げ飼育係が育てる人工哺育に切り替える必要があります。人工哺育は動物園の出来事としてマスコミに取り上げられ、宣伝的役割もありますが、本当は避けたいものなのです。人工哺育された個体はその種としての正常な発達に少なからず影響を与えるからです。この国際的な繁殖計画の中に人工哺育された個体が参加資格を与えられるかが一抹の不安として残るからです。
   
             
4月11日、 数日前から朝サル舎に入って一番最初に確認するのがシシオザルの部屋でした。この日目にしたものはぐったりとした子供をまるでネコが子供をくわえて運ぶような母親の姿でした。
子供を正しく抱こうとするようすがなく、目にしたときはもうダメだと思いました。それでも完全に子供を放棄してはいません。むしろ放棄してくれた方が都合がいいのですが、下手に高いところから落とされたりしたらせっかく無事生まれたのに致命的になりかねません。観察していると寝室の台の上に子供を置きました。手足には力は見られませんでしたが、わずかに腹部が動いているのを確認する事が出来ました。生きている、でも早く取り上げなければならないと、同じ飼育班の係員と獣医に来てもらいました。ようすを見てもらいましたが‥やはり取り上げた方がいいと一致した意見でした。シュート(屋内と屋外の展示場の間にある扉)を開けて母親と父親を外に出し、子供を取り上げる。これが一番なのですが、子供をくわえて外に出られると危険は増します。そこで係員が一人だけ中に入って放した子供を助ける手段を取ることにしました。その時やはり子供を落下させてしまいましたが、無事取り上げることが出来ました。取り上げた時、体に暖かみを感じることが出来なかったため、直ちにタオルにくるみ動物病院に運び手当を受けさせ保育器でいったん安静にしました。幸い、骨折や外傷はなかったものの著しく体温が低下していたため、産湯につけ体温を上げる処置がとられました。そのかいあって午後には体温は36℃以上にまで回復しました。午後から哺乳を始めました。ミルクはヒト用の粉ミルクを与えました。午後1時に飲んだ量はわずかに5ml。夕方にもう1回与えてその日の合計9mlのみ。体重は500gほどで人の手のひらに乗る位の小さな体でしたから哺乳量としては十分な量だと思われました。わずかな量ではありますが、自分の力で飲んでくれたのを確認することが出来、不安がなくなっていく気がしました。
   
    
 
   

〜 2000年12月撮影 〜
※ 翌12日から本格的な人工哺育のスタート
  になりました。当面約2時間間隔で1日6回
  行うことにしました。
  多い時で1回に10ml以上飲んでくれたため
  トータル54mlになりました。順調です。

〜 2000年5月撮影 〜
生後3日目 もう上下2本ずつ門歯が生えているのが分かりました。
5日目 保育器の中にダンボール箱を入れて収容しているのですが、高さ20cm位の縁に手をかけ立ち上がるようになったため、もしものことを考えて高さを10cm上げることにしました。両腕の発達が他の部分に比べて早いことが目に付きました。同時に人工哺育の特徴的行動である指しゃぶりが見られ、また動くものを目で追っているようすも確認できました。
7日目 天気も良いので初めて日光浴のため外に出してみました。発達段階において日光浴は欠かせないからです。
13日目 さらに2本下の歯(第2門歯)が生えてきました。
14日目 バナナを与えてみると少しだけなめるように食べました。後ろ足も力強くなってきました。足を使ってダンボールの箱に登るような体勢もとれるようになりました。同じマカク属のニホンザルの子供でもこの頃になると一人歩きすることができるので、これから日を追って行動が活発になっていくことと予想されました。
24日目 バナナをなめるだけでなく飲み込むことができるようになり、量もわずかずつ増えてきました。
29日目 昼間は保育器から出しておくことにしました。日光浴のため外に出すと散歩するようになり、後ろ足の筋肉の発達が目立ってきました。
43日目 動物病院からサル舎へ移し、通常のケージで飼育を始めました。手足をかけられる部分が増えたため、活動も立体的になり、より活発になりましたが、しがみつくことができるタオルを入れておくことは欠かせません。
51日目 ケージ内でも、また、閉園後芝生の上で、遊ばせるとよくピョンピョンとジャンプをします。バナナやムシイモもよく食べました。この頃では哺乳回数は1日3回です。離乳食は少しずつですが親に与えている食物と同じ種類を今は食べなくても与えることにしました。人間用の離乳食を与えてみたことはありましたが、食べたのは一時的でした。むしろ固いものの方を好むようでした。
65日目 65日目の6月14日午後から入園者の方々に見ていただこうと、サル舎で一般公開を始めました。
70日目 体重900g。この頃の体重増加は1日10g〜20gになります。
75日目 哺乳回数を1日2回としました。1回の哺乳量は40mlです。固形食も口にしているので体重の減少はありませんでした。
89日目 89日目に体重が1kgになりました。そして哺乳は1日1回としました。
99日目 気がつくと、色白だった顔がずいぶん黒くなってきました。
155日目 哺乳を終了しました。
173日目 9月30日。体重1420gにまで成長しました。今まで数回便が柔らかくなったことがありますが、ほとんど問題なく育ったと思います。
※  今はまだ1頭暮らしですが、できれば春頃には他の個体と同居させ本来のシシオザルとしての
   生活をさせたいと考えています。種の保存計画に参画できるシシオザルとして、これからが
   真の課題に向けてのスタートになるでしょう。
                  飼育課:岡田博之、山野道雄、尾曽芳之、大野尊信(文責)