カバ舎のナイルティラピア

カバ舎のナイルティラピア


 カバ舎では生態的展示の一環で魚類も飼育しています。今回はその魚、ナイルティラピアのお話です。ナイルティラピアはスズキ目カワスズメ科に属する魚でもともとは、アフリカの魚ですが、食すれば味もよく今では世界中で導入されて養殖されています。食糧面で多くの人々を救ってきた魚なのです。反面、野生化し、導入先のもともとの生態系を崩していることも見落としてはなりません。日本においても沖縄など亜熱帯地方や、本州北部であっても温泉地や工業用の温排水を頼りに越冬し、広範囲に定着していると考えられています。そんなナイルティラピアが、カバ舎ではどんな暮らしをしているのでしょうか。

最大で70cmにもなるナイルティラピア

最大で70cmにもなるナイルティラピア

 

ナイルティラピアの災難

 カバ舎のナイルティラピアはかつて50cm以上の大物が数百の群れで生活していました。しかし人為的なミスや野鳥の襲来でその数が激減してしまいました。今では50cm以上のものが10数匹になってしまいました。また増えることを願っているのですが、彼らを狙うものがいます。それはアオサギ、ゴイサギ、カワウなどの野鳥なのです。

 なかでもカワウは20cmほどの大きな魚も丸のみします。まさしく鵜呑みで、やっと産卵ができる大きさになるころが食べ頃になってしますのです。アフリカにも日本と同じカワウがいて、それは自然の状態といえばそうですが、小さな飼育環境では調和がとれません。カワウのおかげでかなりの魚が減ってしまいました。またカワウを呼び寄せていたのはカバ舎で飼育しているアマサギの餌のドジョウだったようです。ザルに生きたドジョウを入れていたのですが、これもカワウには労せず得られるご馳走でした。これを廃止したところ旨みがなくなったのか、今のところカワウは来ていません。これが一番の狙いだったのかもしれません。しかし、またナイルティラピアが成長して、被害を受けるか心配です。

 

稚魚の救出作戦

 毎年6月にカバ舎では、プールの水を抜いて大掃除します。大きな魚だと、網にかかるのですが、稚魚はすり抜けていまいます。水のない状態が長時間続き、手の届かない場所に行くので救出できなくなります。そこで水を抜く前に稚魚を取って救出することにしました。仕掛けはペットボトルを改良したものを用いました、そうして300匹ほど救うことができました。捕獲した稚魚は来年の大掃除が終わるまで、水槽で育てることにしました。 水槽で飼っていると人にも慣れてきますので可愛いものです。大きく育ってもらいたいものです。

 

稚魚を捕えるための仕掛け

稚魚を捕えるための仕掛け


みどころたっぷりの繁殖

 ナイルティラピアは22℃以上が産卵の適正温度です。水温の条件さえよければ、50日の間隔で産卵が可能です。カバ舎では水は冬場でも22℃に保たれているので、春から秋にかけて2~3回産卵機会があると思われます。

 そして今年の大掃除の後、50cm以上の大物サイズの個体がまた産卵してくれました。ナイルティラピアの繁殖は見どころたっぷりです。普段見分けがつかない雄と雌は、雄のほうが婚姻色を呈し、背鰭と尾鰭が赤くなります。野生では雄が産卵床を作り雌に求愛します。求愛はお互い優雅に体を絡めあってダンスを踊っているかの行動を取るカップルもいます。カップルが成立すると雌が数百の卵を産み雄が精子を放ちます。その受精卵を雌は口にくわえます。ナイルティラピアは受精卵から稚魚まで口の中で育てます。これを口内保育(マウスブリーディング)といいます。

ナイルティラピアの稚魚の群れ

ナイルティラピアの稚魚の群れ


 この一連の営みをすべて見ることは正直、難しいのですがプールの端で婚姻色の雄がほかの魚を追い払っていると、そのそばに口内保育中の雌が見えるかもしれません。口内保育は10日間ほどなので短い期間ですが皆さんも婚姻色の雄と行動をヒントに探してみてはどうでしょうか。

 

カバとともに・・・食事と成長
ナイルティラピアは雑食性で植物性、動物性のものもよく食べます。カバ舎には大好きな食べ物が沢山あります。それはカバの皮膚の古い角質とウンチです。

カバの体に群がるナイルティラピア

カバの体に群がるナイルティラピア

 

カバの角質はタンパク質や微生物、ウンチは未消化の繊維質や微生物が含まれていて、カバのおかげで栄養たっぷりの食べ物が常にある状態なのです。またカバにとっても皮膚をお掃除してもらえて、水の中のウンチを分解してもらえます。

カバの糞(ふん)を食べるナイルティラピア

カバの糞(ふん)を食べるナイルティラピア

 

こういった関係を相利共生と言います。実際カバプールで暮らすナイルティラピアは環境がよいのか、カバ舎のプールの魚のほうが、水槽飼育のものよりも育ちがよいです。加えてオキアミ等の動物性の餌も与えると毎日みるみる成長が見てとれます。これらの採食は観察プールからでもよく見られる光景です。いったん激減した魚が数を増やし成長していく様は、生命力に溢れています。カバとともに、魚の成長もご覧ください。

 

カバ舎と魚たちの展望

ナイルティラピアの生態をより詳しく観察すること、また、その営みを彼らがより行いやすく、また観察しやすく工夫すること・・・。やるべきことが沢山あります。さらにナイルティラピア以外の水生生物を導入することで、少しでも本来の生息環境に近づくかもしれません。カバの故郷の水の中は多様な生物が住んでいて、それぞれ驚きの生活を営んでいます。私たちはまた、新たなことを身近で学べるかもしれません。そう考えていると、カバ舎は楽しみに事欠きません。なにより水中の活性化はカバと魚ためにもなる、そう思えるのです。

 

(上野 将志)