干支の動物ウマのおはなし

マレーグマの現状。


 天王寺動物園では、マレーグマを2頭飼育しています。雄のマーズ11歳と雌のマーサ6歳です。まったり昼寝している姿や2頭で遊んでいる姿は、とてもかわいく愛嬌たっぷりです。実際、担当してマレーグマの行動を見ていても攻撃性も感じないし、マーズに至っては、「おはよう」と顔を近づけて挨拶したら顔を舐めてきます。マーサも夕方に寝室を覗くと芋を手に持って食べながら2足歩行でこちらに近づいてきたりもします。しかし、この愛嬌のあるマレーグマが野生下ではどのような状況に陥っているかはあまり知られていません。マレーグマの愛嬌たっぷりな姿はスタッフブログにて紹介していますので、今回は、野生のマレーグマの現状、日本の動物園のマレーグマの現状をお話したいと思います。

 

マーズ(左)とマーサ

マーズ(左)とマーサ

 

 レーグマは世界8種のクマの中で最小のクマです。野生のマレーグマの生息地は中国南部、東南アジア、スマトラ島、ボルネオ島など広い範囲に生息しています。マレーグマは、マレーシア、東南アジアでは最も関心をもたれていない大型哺乳類とも言われています。IUCN(世界自然保護連合)による保存状況評価は絶滅危惧種(VU)に指定されているにも関わらず、生息数、生息状況がまだまだ把握されていない状況なのです。生息数が減少している理由は様々です。大規模なアブラヤシ農園の開発、生息地の分断、野生動物犯罪に関する取り締まりの不十分、狩猟、乾期における大規模な山火事などもマレーグマの生息地に影響を与えています。アブラヤシ農園に侵入し、害獣として捕獲されたり、若い個体はペットとして取り引きされたり、体の部位の売買も行われています。生息数も把握されていない中でこの状況が続くと気がつけば絶滅という恐れがあります。

 野生では危機的状況にあるマレーグマ、動物園ではその状況を伝えることが大切です。しかし、日本の動物園のマレーグマは12園館で、28頭しか飼育されていません。現在、半数以上が15歳以上です。10年後の日本のマレーグマ飼育園館は更に減っているかもしれません。当園以外でマレーグマに会おうとするなら近くても名古屋まで行かなくてはいけません。当園も含む数少ないマレーグマ飼育園館がマレーグマの魅力と野生下での現状を伝え、環境保全にも興味を持っていただけるように啓発していかなければなりません。同時に繁殖技術も向上し、種の保存にも貢献していかなければなりません。

 私は、ホッキョクグマも担当していて感じることがあります。ホッキョクグマは日本の動物園でも人気動物で関心をもっていただきやすく、温暖化などで絶滅の危機に陥っていることは沢山の方に知られています。しかし、マレーグマは、飼育園館、頭数もホッキョクグマの半分ほどなので知っていただく機会も少ないのです。展示の観点から考えても、地球の最北端に生息しているホッキョクグマと、8種のクマの中で最も南に生息しているマレーグマとの暮らし、体の様々な違いを知っていただくことでどのように進化を遂げているかも知っていただくことができます。体の大きさ、毛の長さ、爪の形状、足の裏など様々な違いを観察できます。同じ生息地の関心のもたれやすい大型哺乳類の保全活動は活発ですが、その裏側ではマレーグマも同じように生息数を減らしているのです。その現状を知っていただくために当園も普及活動、種の保存に貢献し、そしてこのマーズマーサのデータを残し、マレーグマの生態解明に協力できるように取り組んでいきたいと思っています。

 

マーズ

マーズ

マーサ

マーサ

 

 最後にマーズマーサの現状をお話します。マーズマーサは、繁殖行動は確認していますが妊娠、出産には至っていません。相性は良いと思います。マーサも6歳になってこれからお母さんになる可能性のある年齢になったばかりです。観察をしていてマーサの子供っぽい部分もかなり落ち着いてきたと感じているところです。マーズは、高知県立のいち動物公園出身、マーサは、名古屋市東山動物園出身、この2つの動物園の繁殖実績は日本でも群を抜いています。その日本のマレーグマを代表する両親を持つマーズマーサにはもちろん期待しています。ただ、何の工夫もなく繁殖できるほど甘くありません。適切で健全な飼育管理が必要です。5月下旬にも交尾を確認いたしましたので、出産予定日を考え、予定日前になると雌のマーサを展示中止します。そして、グラフZOOにて様子をご紹介しますが採血のトレーニングも開始しました。麻酔を使わずに採血など健康管理をするのが目標です。採血ができるようになると健康状態の把握、妊娠・偽妊娠の確認、健康管理の目安にもなります。あとは、歯の検診なども行えるようにトレーニングしていけたらと思います。

 

マレーグマの交尾

マレーグマの交尾

 

 心配していることと、来園者の皆様にお願いがあります。来園者による餌の投げ込みがマレーグマ舎で多発しています。しかもほとんどがご高齢の方々です。キャラメルや塩分たっぷりのピーナッツなど身体に害を及ぼすものまで投げ込まれています。動物の健康にも悪いですし、お子様達の教育にも悪いですので投げ込みはやめていただきたいです。マーズマーサもビニール袋の音にかなりの反応を見せます。これは当園の他のクマより顕著です。1日でも長く健康に生きてもらえるように飼育管理いたしますので、ご協力よろしくお願いいたします。マレーグマの観察の時間のオススメは、午前中です。ゆっくりまったりしています。是非愛嬌たっぷり、魅力たっぷりのマレーグマに会いにきて下さい。

 

(下村 幸治)