がんばれ、野間馬の福ちゃん


 ひつじ広場の一角に“野間馬”というウマがいます。この15歳になる雄はちゃんといい、愛媛県の今治市にある野間馬ハイランドから来ました。野間馬は古くから日本にいる日本在来馬の一種で、昔はミカン畑で背中にミカンを載せて働いていたようです。ミカン畑の中をスイスイ歩けるように小さく改良された品種で、日本在来馬の中で最も小さいウマになります。

 愛媛県はミカンの生産が盛んなため、野間馬が誕生したものと思われますが、 今では機械が導入され、野間馬が活躍することはないようです。しかし、今でも大事に保護されています。

 私はグラントシマウマも担当しており、ウマの仲間はとてもさみしがりだと感じています。シマウマは単独で隔離すると落ち着きなくなってしまうので、(群れから離れることは肉食獣に襲われる可能性を高めるのでしょう)おそらく福ちゃんも1頭では辛いのではないでしょうか?

福ちゃんをブラッシングする筆者

ちゃんをブラッシングする筆者

 

 もともと福ちゃんは相棒のアンリちゃんという雌と一緒に来たのですが、アンリちゃんは天王寺に来てすぐに死んでしまったのです。 さらに担当者も数年のうちにコロコロ代わり、ストレスのかかる生活を強いられています。家畜のウマは野生動物と違い、人と関わらずに生きていくことは困難です。ちゃんの場合、寝室から展示場へは園路を通らないといけないため、毎日、朝夕には頭絡をつけて連れて歩かないといけません。また蹄(ひづめ)がゆがんで伸びるくせがあるため、月に一回程度、削蹄(さくてい)をしないといけません。

 

柵につないで前足の削蹄(さくてい)

柵につないで前足の削蹄(さくてい)

ナイフで切った後、やすりで整えます

ナイフで切った後、やすりで整えます

 

 でも、私自身、ちゃんとの付き合いが短かいためか、時々頭絡をつけさせてくれない時があり、もっと信頼されないとダメだなぁ...と思ったりします。そこでなるべく毎日、ちゃんを園内散歩に連れて行くようにしています(以前から行われていましたが)。午後の作業の空いた時間に行うので、時間はあまり決めていませんが、北園はアフリカサバンナゾーンをハイエナ舎の辺りまで行き、そこから折り返して南園のホッキョクグマ舎までがだいたいのルートです(日によって変更します)。こうすることで、ちゃんの気晴らしになればいいかなぁと思っていますし、お客さんにも、福ちゃんに触れ合ってもらうことで、喜んでいただけるかと思います。ただし、ちゃんにかかるストレスも考慮していますので、ちゃんがイラついていたり、あまりたくさんの方に触られそうな時は中止する場合もあります。ゴメンなさい。

 

園内散歩中の福ちゃん

園内散歩中のちゃん

 

 この散歩の中でお決まりになっているのが、シマウマの雌のナデシコとあいさつをすることです。他のシマウマはちゃんに気づいてもあまり反応しませんが、ナデシコだけは、ほぼ毎回近くまで来て、じーっと見つめます。ちゃんの方も同様に見ているので、一度一緒にしてあげてみよかなぁと思ってしまいます。アフリカと愛媛県、ルーツは全然違いますが、同じウマの仲間として通じるものがあるのでしょうか?

 

シマウマのナデシコと対面

シマウマのナデシコと対面

 

 また、以前は恐がっていたブチハイエナやホッキョクグマに対しても段々馴れてきて、仕切りのすぐ近くまで来れるようになって来ました。勝手に思ってるだけかもしれませんが、肉食動物にとっても、たまに獲物になるような動物が現れることは、刺激的な出来事なんじゃないかなぁ、と思います。この先、ライオンやトラ、オオカミに対しても馴らしていき、いろんなパターンの散歩コースをつくり、一人ぼっちの福ちゃんが退屈しないような環境で飼育していきたいと思います。
みなさん、ちゃんの散歩、是非見に来て下さい!

(油家 謙二)