澤邊 久美子さん

 8年前、「カヤネズミの巣を見に行ってみたら?」という一言で、私は日本一ちいさなカヤネズミに出会うことになります。ご存知の方は少ないかもしれませんが、私も当時、カヤネズミという生き物を知りませんでした。初めて聞いた「カヤネズミ」に会いたいと思ったのです。
 そのネズミは夏の暑い草むらの中に住んでいます。ススキなどの葉を使って空中に巣を作る親指サイズのオレンジ色のネズミです。といっても、私はカヤネズミに5回しか会ったことがありません。野生の生き物とはそういうものです。
 初めて見たカヤネズミの巣は感動の嵐でした。そのネズミの巣は、緑色の葉がふんわりと編みこまれていてとてもきれいだったのです。それ以来、カヤネズミは私に数えきれないほどの芸術的な巣を見せてくれました。今まで見た500以上の巣にはどれもカヤネズミの個性が現れているのです。新米お母さんが作ったでこぼこな巣、座布団だけの巣、蚊帳(かや)のように透けた巣、建て増しをした2階建ての巣…、見ていて飽きることはありません。

 カヤネズミの住む草むらにはいつも新しい発見があり、研究を始めてから草むらは飽きることのない私の遊び場となりました。こんな発見の面白さをたくさんの人に伝えたいと、学芸員という仕事を志すようになり、学芸員実習では天王寺動物園にお世話になりました。私は動物観察が好きで、1時間同じゾウを見ていたことがありました。もちろんそんな観察にはかなわない程の力で飼育員の方々は動物たちを見ていました。そこから体調を読み取り、時には新しい生態が分かることもある、観察することの大切さを改めて教えていただきました。

 天王寺動物園にもカヤネズミが飼育されています。野生のカヤネズミは8年で5回しか見られませんが、動物園では1時間でも観察することができます。野生では見られない姿を見せてくれます。草むらで遊んだ帰りに、また動物園へ観察に出かけてみようと思います。 
(さわべ くみこ)