調理場演奏と怖いジャック


 今年の4月から調理場担当になりました。調理場のほかに猛禽(もうきん)舎、カンガルー、ブタやヒツジにヤギ、動物病院や一時収容舎の動物を担当しています。
調理場の先輩から、動物の健康管理が一番の基本と考えて行動するように、さまざまな動物が健康に暮らせるよう、少しでも長生きできるように指導を受けました。動物の餌(えさ)となるいろいろな食品が動物園に入荷しますが、私たちが業者からの入荷食品の厳密な検品・検査、在庫食品の適正な管理をおこなっています。
動物は種類ごとに食性が違いますから、食べる餌(えさ)の内容も異なります。肉を主に食べるトラ・ライオン等、草を食べるラクダ・ヒツジなど、生きた餌(えさ)を好む爬虫類(はちゅうるい)、人工飼料(ペレットなど)が餌(えさ)となる動物もいます。

 朝の調理場は一種独特の雰囲気を出しています。各飼育員は担当の動物の餌(えさ)を調理配合し、できるだけ早く動物に与えたいとの思いで、動きに機敏さと熱気を体じゅうから出して緊張感がにじみ出ているような感じの作業をしています。調理場には、横90cm×縦45cmの合成樹脂のまな板を7枚設置していますが、大変込み合っています。出刃包丁で鶏肉をさばくトントントンや中華包丁で白菜を切るシャキシャキと食品と包丁とまな板の三重奏を奏でる音は生きて活動している音色を出しています。それとは別に電動カッターで根菜類を切断するとき、カシャカシャと刃が回る鋭い音を響かせて調理場全体が音楽を演奏しているように感じます。

 私が一番緊張するのは、猛禽(もうきん)(羽を広げると3mになるコンドル)やカンガルーではなく1頭のコリデール種のヒツジの雄です。私は彼の名前をジャックとつけました。ジャックは彼1頭で飼育しています。餌(えさ)を与えるときや糞(ふん)などの清掃でジャックのテリトリーの中に入って作業します。ジャックに背を向けて作業していると頭から突っ込んでくると先輩から聞いている。あ〜〜怖い(私の心が叫んでいます)。ジャックの目線は私の心臓を突き刺すような鋭い視線を片方の目で直視します。しかし私は弱みを見せてはいけないので、「今からご飯やから食べることに集中してや!!たのむで〜!!」。ジャックは食べながらも、いつも通り片方の目で見ています。私がすきを見せればいつでもジャックは「突進する」と目で言っているように感じます。

 飼育員が動物と信頼関係を築くための、大きな役割の餌(えさ)を調理場担当者は裏方としてアシストさせていただいています。

 動物の食事の姿をながめるだけでも楽しいものですが、あたりまえのように食べている餌(えさ)の向こう側にある裏方の作業も想像しながら観察してみてください。

 

調理場三重奏
調理場三重奏

 

(松島 佳清)