江戸家小猫さん

  動物園を聞いたことがありますか。つい見ることに夢中になってしまう動物園で「聞く」ことに集中すると、新しい発見がたくさんあります。最初に耳に入ってくるのはお客さんの声かもしれません。さらに集中すると小鳥の声が聞こえたり、風にそよぐ葉っぱの音が聞こえてきたりします。このくらい音に対して集中できたら、その感覚のまま園内をまわります。これが小猫流の動物園めぐりです。

 曾祖父(そうそふ)の代から百年以上つづく動物ものまね芸の後継者として、私は昨年3月に二代目の江戸家小猫としてデビューしました。そして今、動物の鳴き真似のレパートリーを増やすために修業をしています。各地の動物園で勉強させてもらっています。

 動物園を聞くとはどういうことか。テナガザルやライオンなどは声がとても大きく、比較的頻繁に鳴き交わしをする動物たちです。要するに聞こうとしなくても聞こえてくる存在です。こうした音に興味をもった経験がある人は多いと思います。実はこれが「動物園を聞く」大事な一歩です。しかし実際には鳴いてくれない動物の方がはるかに多いので、どうしてもまた見る方に意識が戻ってしまいます。ここで「聞いて」みてください。

 聞こう聞こうとしていると、動物が歩く音、食べる音、泳ぐ音、羽ばたく音、とたんにいろんな音が聞こえてきます。音に身をゆだねることで音が見えてくるのです。そこに動物園を聞くことの面白さがあるのではないかと私は思っています。そしてこの音への感覚を養っておくと、きっと珍しい「なきごえ」に巡り合える瞬間がきます。

 もちろん「聞く」ことだけが全てではありません。私自身、動物をじっくり見るのも大好きですし、写真を撮るのも大好きです。そうした多様な楽しみ方のひとつとして、一度ぜひ動物園の門をくぐったら耳をすましてみてください。文字どおり「聞く」動物園を感じることができます。「百聞は一見にしかず」とはならない世界はとても新鮮ですよ。

(えどや こねこ)