新米獣医師 動物園への思い!

 みなさん初めまして。今年の春の人事異動で天王寺動物園の獣医師となりました越智と申します。みなさんは動物園といえば、どんなイメージを持っていますか?いろいろな動物を見て楽しむレクリエーションの場というイメージが強いのではないでしょうか。動物園はレクリエーションの場であると同時に、環境学習の場でもあります。

 大阪というコンクリートの森ではなかなか意識できないことですが、地球上にはいろいろな動物たちがいて、いろいろな自然環境があって、それらすべてが支えあって地球という星をつくっている、ということを意識できる数少ない場のひとつです。環境学習のために動物園の職員として行う仕事のひとつに教育普及の仕事があります。天王寺動物園では主に飼育員は各動物舎前でワンポイントガイドなどを行い、獣医師は団体のお客さん向けにスライドなどを用いた講話を行っています。動物園に配属されてから諸先輩方の講話を聞き、日本という国がどれほどの野生動物たちに影響を与えてきたかということを痛感しました。日本国内だけでもニホンオオカミやニホンアシカなどは人間の手によって絶滅しました。日本国内にあきたらず、世界中から色鮮やかな鳥やリクガメ、カエルなど多くの動物や動物由来の製品を輸入しています。

絶滅したニホンアシカの剥製

絶滅したニホンアシカの剥製

 

 その影響もあり、いま世界では多くの種の動物たちが絶滅の危機に瀕しています。その原因の9割以上は乱獲、環境破壊、そして外来生物だといわれています。当然、このすべてが人間の手によるものです。こういうと「動物たちを捕まえたりしてないから関係ないわ〜」「外来生物ってなんかわからんけどテレビでやってないから大したことないやろ」「節電してるからちゃんと環境守ってるで〜」との声が聞こえてきそうですが、日本に住んでいる以上無関係といえる人はまずいないと思います。
割り箸やティッシュなどを特に考えもせずに使っていませんか?その原料となる木はどこから切られてきたのでしょう?東南アジアやアフリカの国々で木材生産のために熱帯雨森の木々が大量に伐採され、オランウータンなど森にすむ野生動物たちの住みかが奪われています。

 周りに象牙の印鑑やワニ革の財布を持っている人や珍しい動物を飼っている人がいませんか?その動物は野生ではどこにどれだけの数が住んでいるのでしょう?日本に嗜好品の材料やペット用として輸入するために乱獲され、絶滅の淵に立たされている動物がゾウやトラ、サイ、ウミガメなど数え上げればキリがないほどです。

 飼っている動物が飼えなくなったら野山に放したらいいと思っていませんか?その動物はもともとその国にいた動物でしょうか?ミシシッピーアカミミガメ(子ガメはいわゆるミドリガメという名称でペットショップなどで販売されている)やアライグマなど、人間が持ち込んだ動物が野生化しています。これらの外来生物は、もともとその土地にすんでいる在来生物の数を減らし、生態系を破壊しています。

 動物たちがこのまま絶滅していくとどうなるでしょう?地球上のすべての生物はお互いに支えあって生きています。絶滅種が増えることでそのバランスが崩れ、最終的には人間すら住めない地球になってしまいます。

 動物園は絶滅を防ぐために、希少な動物の保護、繁殖という役割も持っています。天王寺動物園でも希少な野生動物を繁殖させ、コウノトリなど自然復帰を果たした種もあります。ただ動物園の限られた土地と限られた予算では野生動物の保護に寄与するには限界があります。しかし、日本中の人たちが少しずつでも野生動物の保護について考え、実行し、また周りの人にもその考えを広げていってもらえれば、その影響は限りなく大きくすることができます。動物園に来られた帰りに家族や友達と環境保護について考えてみてはいかがでしょうか。動物園の教育普及活動を通じて希少動物を守ることに少しでも貢献したいと思います。

 

(越智 翔一)