チンパンジーの食事あれこれ


 2011年12月末現在、天王寺動物園では215種946点の動物が生活しています。その中には、アジアゾウやアミメキリンなどの大型の動物からネズミみたいに小型の動物までいます。すべて生きていますから、当然食べ物をあげなくてはいけません。餌(エサ)の種類や量などは、その動物の体や食性に合わせて変えています。たとえば、肉類を食べる肉食動物には、牛肉や鶏肉、牛骨などを与えますし、草などを食べる草食動物には、牧草や根菜類などを与えます。また、ペンギンやカリフォルニアアシカなどには、魚を与えていますし、コアラのようにユーカリしか食べない動物や、肉や魚や根菜類など多くの種類を食べる雑食性の動物もいて、それぞれの健康と嗜好を考えた食べ物を与えています。
 では、チンパンジーはどんな食べ物を食べていると思いますか?チンパンジーは、大型の類人猿で最も人間に近いと言われています。野生のチンパンジーはアフリカに棲んでいて、果実や木の実、葉、花、蔓(つる)などを食べて生活しています。時には、小型のサルなどを捕まえて食べることもあるそうです。当園では、7人のチンパンジーが生活していて、個々に好き嫌いがあります。(普通、動物を数える時に匹とか頭を使いますが、チンパンジーは人間に最も近い動物ですので、あえて「人」を使いました。)しかし、果実と野菜を中心に、週1回は当園の草食動物に使っている樫の枝葉や牧草なども与えています。

写真1

 私たち人間にもそれぞれ好きな食べ物、嫌いな食べ物があるように、チンパンジー個々にも好き嫌いがあります。たとえば、生のニンジンは食べないが、蒸したニンジンは食べるとか、セロリの葉の部分は食べるのに茎の部分は食べないとか、個体によって嗜好性が違います。中には、好き嫌いなくなんでも食べてくれるチンパンジーもいます。
 チンパンジーの一日の餌の大半は、夕方に各々の寝室へ帰ってきた時に与えていますが、それぞれの個体に対して、檻越しに1つずつ手渡しで餌を与えます。毎日手渡しで餌を与えるといろいろな殊に気づきます。たとえば、バナナの食べ方ひとつにしても、あるチンパンジーはバナナの皮をはがさずにそのまま食べますが、別の個体は、一口目はそのまま食べ、二口目からは皮をむいて中身を先に食べて、最後に皮を食べるとか、はたまた、最初に皮をむいて食べて、最後に中身を食べる個体もいます。バナナひとつにしてもその食べ方に個性があります。また、受け取った餌の順にひと口食べては、決まった場所に置いて、次の餌を受け取り、またひと口食べては決まった場所に置き、すべてを受け取ると好きなものから食べる個体もいます。基本的に動物は好きな餌から食べていきますが、このチンパンジーはお腹が空きすぎてお目当ての餌をもらえるまで待ちきれないんでしょうね。
 もう一つ面白かった餌の食べ方を紹介します。それは、餌の中にパンを与えているのですが、パンを片手に持ちひと口食べては他の食べ物(特に水分の多く含まれている果物)を食べ、またパンをひと口食べるというように、一度に2種類の食べ物を同時進行で食べる個体です。私が思うには、パンばかり一度に食べると喉につかえてしまうので、果汁の多い果物を一緒に食べることで水分を補い、食べやすくしているのではないでしょうか!?チンパンジーもいろいろ考えながら食べているんですね。

写真2

 最後にもう一つお話しをします。チンパンジーには、毎朝一番に人肌ぐらいのお湯に溶かした脱脂粉乳を与えているのですが、ある朝、前日に与えたピーナッツの殻を片手に持ちながら、檻越しで私が与えた脱脂粉乳を飲んでいる個体がいました。その時は、特に気にも留めていなかったのですが、ある日私は見てしまったのです!脱脂粉乳をいっぱい溜め込んだ口に、ピーナッツの殻を押し込んでいる個体を!ピーナッツの殻がよほど味気なかったのでしょうか、そんな食べ方をする個体もいるんやなぁ、チンパンジーもいろいろ考え工夫しながら食事をしているんだなぁと感心しました。この個体、今では脱脂粉乳をもらう前にピーナッツの殻を口に入れてまっています。こんな個性あふれるチンパンジーを見に来てくださいね!

写真3