ニホンジカの一年を振り返って


 ニホンジカ舎で掃除していると「あ!シカや。奈良公園にいっぱいおるで」とお客さんの声がよく聞こえてきます。関西の人にはなじみが深い動物ですね。現在はメスばかり4頭飼育しています。

 さて、話は去年にさかのぼりますが、当園ではニホンジカの隣でシロダマシカも飼育展示していましたが、残念ながら2010年亡くなりました。そこで、その跡地を使って面白い試みをしましたので、写真でご報告します。

(撮影・文:上野 将志)

 

 

シロダマジカがいなくなった飼育場

シロダマジカがいなくなった飼育場。
それまでなかった草が生えてきました。

牧草の種(イネ科チモシー)をまきました

2011年6月にキリンやシマウマの糞から作った有機堆肥を土に混ぜて耕し、牧草の種(イネ科チモシー)をまきました。

2011年7月頃の写真

2011年7月頃の写真です。
まいた牧草以外にも様々な草木が生えてきました。

ニホンジカを入れたところ

そこにニホンジカを入れたところ、喜んで牧草を食べていました。

ニホンジカのサブパドックとして時々使うことにしました

そこで、この場所をニホンジカのサブパドックとして時々使うことにしました。でも、牧草を食べさせ過ぎると便が柔らかくなりすぎるので、時間を決めて使いました。

同年11月の写真

同年11月の写真です。たくさんあった草木は食べつくされましたが、センダンという木だけが残りました。

 

 センダンは人にとって有益な樹木で材木や薬に用いられます。センダンの実はヒヨドリが好んで食べますが種子には毒があります。ヒヨドリは種子だけを糞として排泄しますので、このセンダンもヒヨドリがまいたのかもしれません。センダンの葉には虫よけ効果がある成分が含まれていますので、ニホンジカはこの成分を嫌って食べなかったかもしれません。

 現在、日本の森林ではニホンジカが増加しているようです。その原因は様々ですが、人が里山を利用しなくなるなど人の生活様式の変化が影響を与えているようです。結果として、、毒のある植物ばかり繁栄し、日本の森林はバランスが崩れていると言われています。

 日本におけるニホンジカの問題は一言では語れない事なのですが、ニホンジカのサブパドックでは日本の森林で起こっていることと似たようなことがおこったのかもしれません。ニホンジカを通じて足元の自然について考える機会になりました。

 なお、現在、ニホンジカのサブパドックではコアラの餌となるユーカリの苗を育てています。この付近は、将来的にオセアニアの森になる予定です。