ボルネオ紀行−ボルネオの現状とBCTJ「吊り橋プロジェクト」-(その1)


【はじめに】
 みなさん、ボルネオって知っていますか?島の名前なんですが・・・ボルネオ島は東南アジアのマレー半島の東に浮かぶ、世界で3番目に大きな島で、ちょうど赤道の真下にあります。熱帯雨林に覆われた自然の宝庫でしたが、今まさに、その自然が消滅しようとしています。

BCTJのHPより
BCTJのHPより

今年の5月、私が参画しているNPO法人ボルネオ保全トラストジャパン(BCTJ)の活動「吊り橋プロジェクト」に参加するためにこのボルネオ島に行ってきました。今回は、ボルネオの現状について紹介します。
【BCTJとは】
BCTJとは、ボルネオ島の自然を守り、その生物多様性を保全するためにできた団体です。今回実施したオランウータンの行動範囲を広げ出会いの機会を増やすための「吊り橋プロジェクト」の他に、ボルネオの熱帯雨林にある保護区と保護区を結び野生動物が生命をつなぐ「ボルネオ緑の回廊プロジェクト」、野生生物レスキューセンターを造る「ボルネオへの恩返しプロジェクト」、地元の人々が持続可能な資源活用やエコツアーなどの自然保護支援活動、これらの活動とボルネオの現状を伝える広報・環境教育活動などの活動を通じて、アジアの市民や子どもたちに生物多様性の重要性や持続可能な社会のあり方を伝えるとともに、人間と自然が共生できる地球環境を次世代に引き継いでいくことを目的に掲げています。詳しくはホームページ(http://www.bctj.jp/)を見てください。

【ボルネオの自然、今昔】

旅客機から見たアブラヤシのプランテーション
旅客機から見たアブラヤシのプランテーション

 実は、20年ほど前に、私はこのボルネオ島のサバ州のセピロークにあるオランウータンのリハビリテーションセンターを訪ねたことがありました。当時、私は動物園に転勤してきたばかりでしたが、運よくオランウータンの担当獣医師になっていました。ちょうどその頃、青年海外協力隊としてこのセンターに派遣されていた獣医師の活動をテレビで見て感動し会いに行きました。日本からマレーシアのクアラルンプールに飛び、そこからボルネオ島のサバ州コタキナバルを経由してサンダカンに行きました。飛行機から見える熱帯雨林にわくわく、ドキドキしたことを今でも覚えています。

 しかし、今回は様相が違っていました。まず、ビックリしたのは、クアラルンプール空港に到着する前の飛行機の窓から見えるマレー半島の風景。一見、緑に覆われているように見えますが、よく見ると何やら幾何学的模様が広がっています。そうです、森林全体がアブラヤシのプランテーションになっていたのです。マレーシアでの熱帯雨林の減少は話には聞いていましたが、これほどまでとは思いませんでした。   
クアラルンプール空港からの風景
クアラルンプール空港からの風景
サンダカン空港着陸直前の風景
サンダカン空港着陸直前の風景

 これまで、タイ王国に何度か行ったことがあります。タイ王国でも森林の伐採が進んだために、国が樹木の伐採を禁止しました。そのために、もともと切り出した木材の運搬を生業としていたゾウとゾウ使いの仕事がなくなり、今は観光地でのゾウライドが主な仕事になっています。同じような森林の減少がマレーシアでも起こっていました。この光景は、クアラルンプール空港の周辺はもちろん、ボルネオ島サバ州のコタキナバル空港周辺やサンダカンでも同じでした。

【セピローク・オランウータンリハビリテーションセンター】

 サンダカンでワンボックスカーをチャーターして、最終目的地であるボルネオ島サバ州のキナバタンガン地区に行く前に、かつて訪ねたオランウータンリハビリテーションセンターを再訪しました。

リハビリテーションセンター入口
リハビリテーションセンター入口

 20年ぶりに見る施設は、とてもきれいに整備されていました。しかし、いわゆる1つの観光地となっていて、入場料を取っていました。ゲートから入り、二次林を抜け、観覧場所に着くと、そこには多くの欧米人がオランウータンの給餌風景に見入っていました。動物保護や環境保全にはたくさんの経費がかかります。資金を稼ぐことは悪いことではありません。そのおかげでしょうか、設備もよくなっていましたし、飼料事情も改善されていました。

リハビリセンターの観覧場所
リハビリセンターの観覧場所

 しかし、現在も約40頭のオランウータンが保護収容されていて、その数は過去に訪問した当時と変わりませんでした。このことは未だに保護されている実態と自然復帰できないオランウータンの現状やこの施設の限界を物語っていると思われました。

 リハビリテーションセンターを後にし、約3時間車を走らせて、ベースキャンプであるバトゥプティ村に到着しました。そこでは、まず現地住民との顔合わせと明日からの作業について打ち合わせを行いました。さらに、現地の作業に以前から協力してもらっている英国人のサイモン氏が合流し、吊橋設置の具体的な打ち合わせを行いました。

オランウータンの給餌タイム
オランウータンの給餌タイム
整備された施設と英国人ボランティア
整備された施設と英国人ボランティア

 ところで、BCTJ「吊り橋プロジェクト」は今回で4回目ですが、いずれも日本で廃棄される消防ホースを使っています。というのも、消防ホースは耐用年数が過ぎていてもまだまだ丈夫で、日本の動物園では、以前からチンパンジーやオランウータンなどの展示場でロープの替わりやベッドを作るのに使ってきました。このノウハウをボルネオに持ち込み、伐採や川で分断された森を吊り橋でつないで、野生のオランウータンの行動範囲を広げ、個体同士の出会いを増やし、種の保存に活かすわけです。まさに、動物園で培ってきた域外保全の技術を、ボルネオという自然の域内保全に応用しています。

バトゥプティ村の住人との打ち合わせ

バトゥプティ村の住人との打ち合わせ

だから、これまで架けた3つの吊り橋は、BCTJのメンバーと現地の自然保護関係者に加えて、日本の動物園関係者が参加してきました。今回もBCTJの理事である中西氏と京都市動物園の和田氏、千葉市動物公園の伊藤氏、そして私が参加しました。さらに、今回は初めて地元の住民の方々も吊り橋設置に参加しました。この村の人々は以前から、自然環境の保全が村おこしや生活の基盤になると考え、エコツアープログラムを実践されていました。ですから、我々のオランウータン保護活動にも積極的に協力するのだと思います。

英国人のサイモン氏との打ち合わせと資材確認
英国人のサイモン氏との打ち合わせと資材確認

 打ち合わせが終わるやいなや、いきなりスコールの洗礼に合いました。歓迎されているのか、拒まれているのかと思いつつ、最近の日本のゲリラ豪雨を思い出し、日本も熱帯化しているのではと考えてしまいました。現地では、スコールはほぼ決まった時間にドッと押し寄せて、サッと引き上げるものであり、そのとおりに雨が上がったので、ホームステイ先の家に向かいました。いよいよ明日から吊り橋の架橋作業です。ですが、誌面の都合上、続きはグラフZOOで紹介します。

(竹田 正人)