古川 裕也さん

 僕が動物園で写真を撮っていると「何を撮っているのですか」と、不思議そうに聞かれることがよくあります。それというのも、僕が動物のいない景色ばかりにカメラを向けているからです。もしかすると、ちょっと見えにくい場所に動物が隠れていて、それを僕が撮っているのだと思われているのかもしれません。だから、ちょっと申しわけない気持ちで「あそこの樹を撮ってます」とか「あの壁の絵を…」と僕が答えると、檻のこちら側にも珍獣がいるぞ、という顔をされてしまいます。 
 動物園で撮るものといったら、やっぱり動物です。動物園へ行くと大きなカメラを持った人たちが、ライオンや象を撮っているのを目にします。しかし、僕がいつも撮っているのは、動物のいない展示風景なのです。それを撮り始めたきっかけは、天王寺動物園でした。数年前、初めて訪れた天王寺動物園で、キリンや象が本当のアフリカのサバンナやアジアの熱帯雨林にいるかのような景色を見て、こんな展示方法があるのかとびっくりしたのです。この自然のような景色を動物園に再現する展示方法を「ランドスケープ・イマージョン」と呼ぶのだと、あとで本で知りました。今まで動物は見ていたけれど、動物がいる場所はよく見ていなかったことに気付き、動物園の展示をテーマに写真を撮ることにしたのです。以来、関東や関西の動物園へ行っては、ランドスケープ・イマージョン展示だけでなく、昔ながらのサル山や、森や岩山の絵を壁に描いた小屋など、様々な動物たちの展示風景を動物がいない時を狙って撮りました。動物を入れなかったのは、展示風景に注目してほしかったからです。
 動物園の主役はもちろん動物たちです。でも、たまには動物たちがいる場所をよく見てみると、今まで気付かなかった新しい発見があるかもしれませんよ。それと、動物がいないのに写真を撮っている人がいても、あまり変な顔で見つめたりしないであげてくださいね。

(ふるかわ ゆうや)