ソデグロヅルの人工繁殖の取り組みについて

ソデグロヅル

 さて今回はソデグロヅルの人工繁殖についてお話します。ソデグロヅルは世界で3000羽程度しかいなくて、絶滅寸前と評価されているツルです。天王寺動物園ではソデグロヅル(Grus leucogeranus)を1995年より現在飼育している雄、雌のペアで飼育しています。これまでに産卵、抱卵の経験はありますが、すべて無精卵でヒナがかえることはありませんでした。ツルのような大型の鳥では発情期に雄が雌の上に乗り翼でバランスをとりながら交尾をします。しかし、当園で飼育している雄個体は2008年1月8日に左上腕骨を骨折してしまって、その時に上腕骨(肩から肘の骨)の肩に近いところで断翼しているため交尾の際にうまくバランスがとれなくて自然交配での受精がとても難しくなってしまいました。そのため2010年から人工繁殖を目指して飼育担当者以外に他の若手飼育員を中心にしたソデグロヅル人工繁殖チームを作り、さらに神戸大学と共同研究という形で本格的に人工授精に取り組んでいます。

 2010年は3月17日より週1回程度、「マッサージ法」といって一人が雄を股に下に抱え込んで太ももをマッサージし、もう一人が腰から尾羽にかけてをマッサージして雄を興奮させて射精を促す方法で採精し、精子が確認できればその都度雌に注入する方法で人工授精をしました。同時に雄のテストステロンという性ホルモン動態を確認するため、糞を採取し、ホルモンを測定しました。5月6日に初卵を産卵し、受精率の高い産卵当日に人工授精を実施しました。産卵日に人工授精をするとなぜ受精率が高いかというと、鳥の卵には殻がありますが、ツルでは卵巣から排卵されて産卵までに2日くらいかかり、その間に卵白が作られて卵殻が作られて産卵されます。殻があると精子が卵に入れなくなって受精できません。そしてツルはだいたい2つの卵を産んで抱卵しますので、1つ目の卵を産んですぐに人工授精をすれば、2つ目の卵が受精卵になる可能性が高くなるというわけです。しかし、産卵日に捕まえられて人工授精をしたストレスか2卵目の産卵は見られませんでした。そこで2クラッチ目の産卵を促すために、初卵を5月17日にタンチョウへ託卵しましたが、6月1日にわれてしまいました。5月27日の朝に2クラッチ目1卵目を産卵したので、午後から人工授精を実施しました。しかし、2卵目の産卵はなく、1卵目も残念ながら無精卵でした。

 2011年は受精の確率を増やすため採精回数を週2回に増やし、3月22日より実施しました。採精時に雌の陰部を確認し、人工授精を実施するか、凍結保存するかを判断することとしました。マッサージ法による採精中に、射精した精液がとんでしまっていい精子がうまく取れないことがあったので、ハンガーとラップを用いた器具を作成してうまく精子を回収できるように工夫しました。3月31日に雌の陰部が腫脹し、交配適期を迎えようとしていることがうかがえましたが、その後陰部は委縮してしまいました。頻繁に捕まえられることでストレスがかかり、発情が止まっている可能性も考えられたため、4月11日より雌の総排泄腔の状態確認を中止しました。5月5日に1卵目の産卵を確認したため、当日人工授精を実施し、5月8日に2卵目の産卵を確認しました。親が約1ヵ月間抱卵しましたが、残念ながら2卵とも無精卵でした。

 2010年から2年間、試行錯誤を繰り返しながら人工授精に取り組んできました。その結果、採精技術の向上ならびに産卵時期の的確な判定が、不必要なストレスを与えず効率よく人工授精を行うための重要な要因であることがわかりました。採精技術の改善を検討するとともに精子の性状や巣材への関心度などで産卵時期を絞り込むことで、雌へのストレスを最小限に抑えながら人工授精をして来年は人工繁殖を成功させたいと思っています。

(西岡 真)