西澤 真樹子さん

 私は、天王寺動物園にほど近い大阪市立自然史博物館の動物研究室で、哺乳類の標本を作っています。博物館には、交通事故に遭ったイタチやタヌキ、窓にぶつかって死んだ鳥などが次々と持ち込まれます。動物たちはいったん冷凍庫で保管され、少しずつ骨格標本や研究用の剥製に作られていきます。
 この冷凍庫がときどき、一気に満杯になるときがあります。それは動物園からの死体を引き取るときです。飼育動物が寿命や病気で亡くなると、まず獣医さんたちの手で病理解剖されます。死因は何か、他に悪いところはなかったのか。イヌやネコなど、同じ種類を何百頭も扱う町の獣医さんとちがい、あらゆる種類の動物を診る動物園の獣医さんは大変です。次の治療につなげるために、死んだあともきちんと観察して、記録を取っておくのです。
 解剖が終わると、動物園の冷凍庫にしまわれます。ここがいっぱいになりそうな頃、博物館に声がかかるというわけです。私たちの博物館では天王寺動物園から多くの死体を引き取り、「なにわホネホネ団」という標本作製ボランティアの手を借りながら、骨格や毛皮を研究用標本として残す活動をしています。
 動物園によっては、近くに博物館がないため死体の行き先がなく、病理解剖後しかたなく焼却処分にするところもあるそうです。しかし、それではあまりにも動物たちがかわいそうでならないのです。
 私たちは死体を標本にしてからも、愛情を込めて、生きていたときの名前で標本を呼ぶことがあります。長生きで有名だったキリンのサキコ、ホッキョクグマのユキコ、オランウータンのブル、昨年亡くなったカバのナツコ...博物館の地下収蔵庫を歩けば、ホネの入った箱の上に書かれた懐かしい名前を見つけることができるかもしれません。

 標本は公共の財産です。誰でも手に取り、観察できるものです。もし、ずーっと昔に天王寺で会ったあの動物はどうしているのかな…と思ったら、自然史博物館を訪ねてみてくださいね。
(にしざわ まきこ)