アジアゾウの春子


 以前「なきごえ」にアジアゾウの春子の老人性白内障、そして歯や筋肉など体の衰えなど老いについて少し載せたことがありますが、今回も老齢ゾウ春子について書いてみたいと思います。
 春子も今年で推定年齢63歳になり、日本国内では2番目に長生きしているお婆ちゃんゾウです。ゾウの平均寿命は60〜70年と言われており、春子お婆ちゃんはいつ寿命が来てもおかしくない年齢のゾウです。そんな春子お婆ちゃんも毎日70〜80sの餌を食べ、昨年の酷暑も乗り切り健在ぶりを私たちに見せてくれました。
元気そうに見える春子お婆ちゃんですが、現実は老齢ゾウなのです。2010年10月22日、春子お婆ちゃんのお腹が張り元気がありません。様子が変です。どうやら夏の疲れからか、鼓張症(お腹にガスがたまる)になったようです。

伸びをする春子。

伸びをする春子。便秘などお腹の調子が悪い時によく見られる行動です。

 

 若き頃の春子ならさくにお腹を押し付けたり伸びをしたりひざをついたりして体をくねらせ、お腹に圧力をかけてガスやフンを出して鼓張症を克服してきました。しかし今回は老齢のせいかすぐには回復せず長期化しました。老齢の体への体調不良は肉体的にも精神的にも相当こたえたようで、食欲が回復し始めても体調は普段通りには戻らず次のような状態が見られました。

  1. 担当飼育係の姿や声に対する反応が鈍い。
  2. 立っている時や歩く時にふらつくことが多く、四肢や鼻であわてて体を支え転倒を防ぐ。
  3. キウイフルーツ等、今まで全く食べようとしなかった食べ物を急に食べるようになった。
  4. 行動や判断が粗暴になり、慎重さに欠ける。

などです。

柵にもたれかかって体を支える春子。

柵にもたれかかって体を支える春子

普段は私たち飼育係にも滅多にこのような姿を見せません。

 

 私たちは、春子お婆ちゃんが寝室に引きこもってしまわないよう、体調が万全でなくても極力普段どおりの生活リズムに戻すように世話をしていたので、彼女の変化がよく見えたのかもしれません。

 そんな春子お婆ちゃんも10月30日には食欲が出てきて健康なフンに戻り始めました。「うん!健康なフンのにおいや!」いつもの春子お婆ちゃんに戻りました。しかし、今までの春子お婆ちゃんとは少し違います。

鼻をさくに乗せて休む春子。

鼻をさくに乗せて休む春子。プライドが高く弱みを

見せないゾウでしたが、私たちに甘えることも増えてきました。

 

 そんなことを感じているのは私たち担当飼育係だけかもしれません。確かに元気にはなりましたが、声をかけても反応が鈍い事が多くなったし、あれほど慎重で注意深かった行動が少し粗野になりました。もしかしたら少し「認知症」が始まったのではと感じています。

 私たち担当飼育係は春子お婆ちゃんが今後も長生きして欲しいと思いつつ、さらに難しくなっていく老齢ゾウとの関わり方を試行錯誤して考えていかなくてはならないと感じています。

(撮影・文:小谷 信浩)