キリンの飼育


 キリンはアフリカに生息するウシ目キリン科の動物で、とても背が高く動物園でも人気があります。天王寺動物園ではアフリカサバンナゾーンでアミメキリンを雌雄で飼育しています。雄のケニアは1990年生まれの20歳、雌のハルミは1984年生まれの26歳なのですが、キリンの寿命は長生きしても30歳ぐらいまでですから、どちらも若いとはいえません。特にハルミはかなり高齢といえます。

ケニヤ
ケニヤ
ハルミ
ハルミ

 今回はこのキリンの熟年夫婦の暮らしを紹介したいと思います。
 まずは朝、寝室からグランドに出すのですが、キリンは首がとても長く、おとなになるとその長さは2メートル以上になります。ですからキリンの心臓は2メートル上の頭まで血液を送るため、とても強く動いています。つまり高血圧なわけです。これからの季節は朝一の外気温がとても低く、寝室との温度差が大きくなります。キリンは極端な温度差が苦手で、急に寒いところに出すと、血管が収縮して鼻血を出したりします。血圧が高いために起こる現象なのですが、こうならないために冬場は彼らを出すちょっと前に、寝室の窓を開けて少しずつ外との温度差を縮めてから出すようにします。
 出す順番はハルミケニアの順です。ケニアハルミのことがお気に入りなので、ハルミが外に行くとケニアもすんなり行ってくれます。逆にケニアを先に出そうとしても、ハルミが寝室内にいますとケニアは出たがりません。一方ハルミはマイペースな性格でケニアがいてもいなくてもあまり関係ないようですが、雨が降っていたりすると、外に出るのを嫌がります。そんな時は後ろから声をかけ、竹ぼうきなどでお尻をつつきながら出します。ハルミは最近少し肢も弱ってきて、ぎこちない歩き方をする時があり、そんな時は申し訳ない気持ちでお尻をつついています。これからも長生きしてもらうように、天候が悪い時や寒過ぎてハルミがブルブル震えている時は、早めに寝室に入れたりすることも必要かなと思います。皆さんにはご迷惑をかけるかもしれませんが、お許しくださいね。(そんな時はケニアが屋内展示室で皆さんをお迎えします)

キリン屋内展示室
キリン屋内展示室

 天気に問題がなければ、3時ぐらいまでは屋外展示場で過ごします。(曜日や季節によって変更があります)屋外展示場ではシマウマやエランド、ダチョウ、ホロホロチョウなどと一緒なんですが、時々動物同士のトラブルがあるものの、基本的にはお互いあまり干渉せずに過ごしています。ただダチョウだけはキリンのシッポをつついたりして遊んでいますが・・・。

アフリカサバンナゾーンの動物たち
アフリカサバンナゾーンの動物たち

  それと日中時間を決めずに不定期にグランドにエサを撒きに行く「おやつタイム」を実施しています。時間を決めない理由の1つに、他の作業の進み具合が毎日一定じゃないことがあります。また、動物たちはわりと正確な体内時計を持っていますので、時間を決めない方が動物に予測されず、いつエサがもらえるんやろか?といった期待や刺激が与えられるのでは、と考えているからです。いわゆる動物の生活を豊かにする環境エンリッチメントの一環として「おやつタイム」を行っているわけです。この「おやつタイム」では、キリンとシマウの食事のしかたの違いが観察できますので、是非ご覧になってください。

キリンのおやつタイム
キリンのおやつタイム

 夕方になると寝室に帰りますが、ケニアハルミのどちらかが屋内展示室に入ります。すんなり自分の寝室に入れるのはどちらか一頭だけです。屋内展示室ではグランドで見るより近い距離でキリンを見ることができます。以前はケニアが屋内展示室に入るのを怖がるため、ハルミが毎日入っていたのですが、ハルミのストレスを緩和するために毎日少しずつケニアを馴らして、ようやくケニアも屋内展示室に入れることができるようになりました。しかしケニアは屋内展示室にいても、前にいるお客さんよりうしろの寝室にいるハルミや自分の寝室の方が気になるらしく、ずっとお客さんにお尻を向けて、長い首をハルミのいる方へ伸ばしてしまいます。ごめんなさい。
 閉園前になるとようやく、屋内展示室にいたキリンも自分の寝室に帰り、くつろげる時間になります。ここでメインのエサを与えるのですが、本来キリンは採食の際、長い舌を上手に動かして木の枝から葉っぱを採ったりします。飼育下でもそれをできるだけ再現した方が良いみたいなので、いくつかの餌箱をわざと柵の外に設置して、柵の間から舌を伸ばしてエサを採るようにしています。ケニアハルミも採りにくそうにてこずっていますが、翌朝になるときれいにエサがなくなっていますので、キリンの舌はやはり器用だと感心します。

 

 これからの目標として、ハルミの前肢の蹄が一部伸びてきていますので、これをスムーズに切れるようにトレーニングしていき、さらには体の他のいろいろな部位の手入れができるように、触られても嫌がらないようなトレーニングもしていきたいと思っています。もちろんケニアに対しても同様です。この2頭のキリンはけして若くはないですけど、いつまでも元気でいられるように、努力したいと思います。

 

撮影:土谷 正道、文:油家 謙二