コウノトリの野生復帰まで


コウノトリとは
 「コウノトリ」というと、皆さんは何を思い描かれるでしょうか?
 私が真っ先に頭に浮かんだのは、アニメの「ダンボ」の最初のシーンです。それぞれの動物の赤ちゃんを布に包んで嘴にくわえたコウノトリたちが、軽やかに飛んで親に届けに行く・・・・・・子供の時にわくわくしながら観たアニメです。このようにアニメの「ダンボ」で知った方も多いのではないでしょうか?
 「子供を運んでくる」で有名なコウノトリですが、これはヨーロッパにいるコウノトリ「シュバシコウ(Ciconia Ciconia)」で生まれた伝説が広まったもので、日本に生息していたコウノトリは別種のニホンコウノトリ(Ciconia Boyciana)で、明治以前は各地に記録があり、昭和46年まで生息していました。現在野生ではユーラシア大陸極東地方に約3,000羽が生息していると言われており、国際的な保護を必要とされています。

保護増殖の歴史
 コウノトリはかつての日本では里山の松の大木などに営巣し、田んぼや湿地で餌を採って生活していました。明治期に一般人も銃をもてるようになると日本各地で数を減らしましたが、豊岡ではその後の保護により最大100羽を超えるコウノトリが生息していたと言われています。しかし第2次世界大戦中に巣を作るのによい松の大木が切られたり、戦後には農薬の散布で餌となる生き物が減少するなどして、さらに数を減らしていきました。そこで減少したコウノトリをどうにかしようと、卵の人工孵化や、親鳥を捕獲し人工飼育に切り替えるなどの手が打たれましたが、卵が孵化することはありませんでした。 
 このように残念ながら豊岡産のコウノトリは子孫を残せず全て死亡してしまいましたが、昭和60年にロシア(旧ソ連)より寄贈された6羽のコウノトリからペアが誕生し、ようやく平成元年に人工繁殖に成功しました。その後も国内の動物園と個体を交換するなどして毎年順調に繁殖し、飼育数を増やしていきました。
 このような状況の中、私の勤める「コウノトリの郷公園」は、平成11年に開園し、コウノトリを保護・増殖し、野生復帰させるという目標に向かって研究・活動が行われました。そして平成14年には飼育羽数も100羽を越え、平成17年の試験放鳥に向けた準備が始まりました。

飼育施設のある非公開ゾーン
飼育施設のある非公開ゾーン

放鳥個体の選定
 野生復帰するには、放鳥する個体がいなくては成り立ちません。最初に放鳥する個体は飼育個体から選抜された精鋭でした。
選抜方法は3段階に分けて行い、第1段階では放鳥に適さない個体を除きました。つまり高齢である個体や、嘴が一部折れてしまっているなど、野外で生活するには問題がある個体などを除きました。
 第2段階では、個体の能力に注目しチェックシートを用いて順位付けを行いました。飛翔能力や社会性・行動・採餌状態などです。それにより優秀とされた個体が馴化ケージという飛翔可能な大きなケージに移され、訓練が行われることになりました。馴化訓練では飛翔能力、採餌能力の向上、社会性の取得を目指しました。
馴化訓練は約2年間行われ、最後の選抜として第2段階のシートを用いて再度評価を行い、高得点の個体を選びました。
 また、馴化訓練では思わぬ効果もありました。それまでペアリングはおろか同居も難しいとされていたコウノトリですが、仲が良くなった個体が現れたのです。そのため最終選抜では個体の能力だけでなく、放鳥後のペア形成を見込んで5羽が選ばれました。
その中には、天王寺動物園で生まれコウノトリの郷公園に譲受された2羽の雌(国内登録番号J294,J296)も含まれていました。

馴化ケージ
馴化ケージ

標識に関する試行錯誤
 放鳥したコウノトリは個体識別のために番号とカラーリングの2種類の足環をつけています。しかし、このリングは飛翔している時、草丈の高い場所にいる時、さらには片脚で立っている時はわからなくなります。
 そこで、2回目の放鳥の時から羽毛に色を付けることを始めました。この色は「アニマルマーカー」という実験動物の染色用に作られた安全性の高いマジックです。赤・青・黄の3色あり、3ヶ月程度もつとされていましたが、翼の内側に塗った色は雨などの影響を受けにくいため翌年に羽毛が抜け替わるまで残っており、予想通り識別に役立ってくれました。このマーカーはトキの放鳥の時も使用されるようになっています。
 しかし赤色は何度も「出血」と間違えられてしまいましたので、現在は赤色は使わず、新色の緑とオレンジを加えた4色で、放鳥個体と、野外で生まれた個体(放鳥個体の子供)の識別に役立てています。

羽毛のマーキングをしたJ0024
羽毛のマーキングをしたJ0024

そして現在
 最初の年の5羽のうち、1羽の雄は不慮の感電事故により死亡してしまい、1羽の雄は血統管理のため収容しましたが、天王寺出身の娘達を含む3羽の雌は元気に暮らし、そして子孫を残しています。
 J294は日本海に近い戸島という地域にある「ハチゴロウの戸島湿地」というハチゴロウと呼ばれ親しまれたコウノトリがきっかけとなり整備された湿地で、人工巣塔で営巣しています。今年で3回目で合計7羽の子どもを巣立たせています。
J296は伊豆という地域の人口巣塔で営巣し、同じく3回営巣し合計4羽を巣立たせていますが、今年は残念ながらヒナが途中で行方不明となり繁殖に失敗してしまいました。
 豊岡全体では、放鳥個体、放鳥個体の子どもたちなど、約40羽のコウノトリが飛び回っています。
 どうぞ、元気に生活しているコウノトリたちに、会いに来てください。

J296一家 (左から、J381雄、幼鳥、J296雌)
J296一家 (左から、J381雄、幼鳥、J296雌)

(みつはし ようこ)