新米ゾウ係糞闘記


見習い泣かせの西展示場

  ゾウ舎にはお客様からゾウを見て頂く展示場が東西2カ所あります。順路沿いに見てバナナ畑や藤棚のある二番目の西側展示場は、広さは少し狭いのですがゾウがどこにいても姿を見ることができて、大勢のお客様にも見やすいことからイベントにも使用されるメインスポットでもあります。動物園の景観作りを専門とするコンサルタントや造園の専門家の先生方が、ゾウの生息地を再現し自然の中でのゾウを見せる工夫が凝らされ、写真を撮られる方にも人気があります。しかし見る側の視線を考えて作られた西展示場は、中でゾウと接する私たちゾウ担当にとっては危険に満ちた飼育係泣かせの空間でもあるのです。

 最初に見える東展示場と、この西側展示場の地面をよく見比べて見ましょう。東展示場に異なり、西展示場は奥行きを広く見せるために展示場全体が坂道になっています。ゾウに接する時は安全のため、平らな所に立つのが鉄則です。ヒトは足を払うだけで簡単に倒れることをゾウたちは知っています。また足下も確かめずこちらが急に転んだりすると無防備になり、ゾウも驚いて何をするかわかりません。私たちは安全を確保するためにゾウの顔色を見ながら足下にも注意する必要があるのです。

 平らな展示場なら足下を気にする手間も少なくてすみ、ゾウにも集中できるのですが、坂道で穴や岩場が多く足場の不安定な西展示場は歩く場所や立つ場所も限られ、ゾウがその気になれば簡単にヒトを追いつめることができる危険な場所なのです。多くの動物園でゾウ舎の展示場が駐車場のように平らなのは安全を確保するためもあるのです。

 私たちは威圧してくるゾウたちを押しのけ、坂や岩場の位置も気にしながら安全な道を優先的に歩かなければなりません。障害物は使い方次第で私たちを守る盾にもなるし、突然命を奪う凶器にもなるのです。
西展示場
こちらが西展示場。ゾウが見やすい反面、
飼育係にとっては危険がいっぱいです

 

(西村 慶太)