今、天王寺動物園のゾウたちが注目されています。とは言っても、他の動物たちのように「可愛い」、「子供ができた」、「世紀の大発見」ではありません、それは「ケンカ」なのです。それも今に始まった事ではなく、かれこれ10年ほど前から続いている事なのです。その原因は何だと思いますか?こそこそ話で悪口を言われた訳でもなく、大切なものを壊され知らん顔をされた訳でもありません。ただただ、自分が一番になりたいから、一番で居続けたいからと思うがために始まった「女の闘い」なんです。子供の「ケンカ」ならいざ知らず、体重がちょっと、いやかなり重いところがやっかいですし、危ないんです。
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運動場の仕切り柵を挟んでにらみ合う春子(左)と博子(右) |
当園にいる2頭のアジアゾウは、春子とラニー博子(以下、博子)。春子はタイ王国生まれの62歳。右目が白内障で視力もなく、戦後の天王寺動物園に君臨してきた雌ゾウです。一方、博子はインド生まれの41歳。元気一杯のやんちゃ娘?で、少々ストレスの溜まりやすい、こちらも雌ゾウです。
春子と博子の「ケンカ」の始まりは、最初はっきりとはわかりませんでした。当時、当園には春子と同時期にやってきたもう1頭の雌ゾウがいました。名前は百合子と言い、春子とは姉妹、あるいは春子の側近的立場でした。この2頭に博子を加え、合計3頭のゾウがいました。徐々に力を付けてきた博子は、手始めにこの百合子をターゲットにしたのです。百合子は旧のゾウ舎の堀に2度、博子に突き落とされています。それが原因かどうかわかりませんが。2000年に心臓の病気で死亡してしまいました。百合子がいなくなり、目標を失った博子ですが、すぐに次の目標が見つかりました。春子です。春子の周りを意味もなく歩いたり、春子が立ち止まれば所かまわず鼻先で相手の臭いを嗅ぐ。これだけならよいのですが、その後は更に近づいていき、触れながら押したり引いたり・・・。しまいには、突いたり引っ張ったりとエスカレートしていきました。尻尾(しっぽ)、後足、前足、耳と場所を選ばずに博子に仕掛けてこられると、春子も黙ってはいられません。自慢の牙で応戦します。が、効くのは一瞬。その後も博子は時間をかけてしつこく粘りながら仕掛けていました。そのうち、誰が見てもはっきり「ケンカ」だと分かるほど激しくなってきました。そうなると怪我して、出血することも日常的になってきました。
野生のゾウでも「ケンカ」はあると言われています。本来、ゾウは雌と子供の群れで行動しています。その中にいる年上で知識と経験を持った雌ゾウが群れを率いていますが、やがてその雌が年老いていくと、次の雌が頭角(とうかく)を現し、やがて老雌に代わってその群れを率いるようになります。ただ、当園の「ケンカ」はちょっと違うように思えます。
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相手が挑発に乗らない時は、わざと尻尾を見せて引き寄せる春子(右) |
「大きくて優しい力持ちのゾウさん」はどこへ行ってしまったのでしょう?実はこの文章も「ケンカ」しそうな2頭のゾウを観察しながら書いています。「あっ!またにらみ合ってるわ!」、「ちょっと、やめてーなー!」、「2頭とも、落ち着いて!落ち着いて!!」、「はいはい、好物のバナナあげるから仲直りしてよ!」とつぶやきながら・・・。
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闘争に夢中になりスキのできた春子の耳を鼻でつかむ博子(左) |
(文:西田 俊広、写真:西村 慶太) |