キーウィの不思議


 アフリカサバンナゾーンの大放飼場は、天王寺動物園の中で最も面積が広く、そこではアミメキリンやグラントシマウマ、エランド、ダチョウ、アフリカハゲコウなどを同居展示しています。

サバンナ全景
サバンナ全景

 もちろんこれらの動物達はみな獰猛(どうもう)な肉食動物というわけではないので、一緒にしていても襲って食べたり、食べられたりするわけではありません。(アフリカハゲコウは肉食の鳥ですが、基本的に死肉を食べるので、自分より体の大きな動物を襲うことはありません)しかし、同じ種類の動物同士でも、複数いると強い弱いが出てくるぐらいなので、いろいろな種類の動物を一緒にすると、さらに複雑な人間関係(この場合動物関係?)に発展するのは当然なことかもしれません。今回はこの動物関係を少し解説してみたいと思います。

 この動物達の中で、唯一、一日中外で暮らしているのがアフリカハゲコウで、それ以外の動物は夜間、動物舎に収容します。アフリカハゲコウは翼を切って飛べなくしており、日中は大放飼場の北端にある大池のほとりでひっそりと暮らしています。このエリアは電気柵で仕切られており、他の動物は入ることができません。彼らはここでは一番弱い立場で、大きなキリンやシマウマに蹴られたりするとへたをすると死んでしまいます。しかし、他の動物達がいない時間帯は彼らの天下で、夕方になりキリンやシマウマ達がいなくなると、大放飼場内を歩き回り、小さな虫やミミズなどを食べて過ごしています。時々、朝になってキリンやシマウマを放飼場に出す時間になってもまだ放飼場内をうろうろしている時があります。そんな時は先にハゲコウを追って大池の定位置まで戻してから他の動物達を出します。
アフリカハゲコウ
アフリカハゲコウ

 なんといっても一番強いのはキリンで、特に雄のケニヤはこの大放飼場の頂点に君臨しています。身長約5m、推定体重1tを超えている巨体ですから当然といえるでしょう。しかし、ケニヤはとてもおおらかな性格で、基本的に食べることと、雌のハルミのことしか興味がありません。他の動物達が低いところでなにをしていようとおかまいなし、まるで別世界にいるようです。自分の採食行動や、ハルミとの交尾行動の邪魔さえしなければ、自分からケンカをしかけることはまずありません。

アミメキリン
アミメキリンのケニヤ

 逆に最も厄介なのがシマウマで、自分より弱いものには容赦なく攻撃します。特に雄のヒデヨシはこの大放飼場きっての無法者です。彼はキリンのケニヤには敵わないのでちょっかいをかけませんが、ダチョウや雌のエランドのナナが近くにいると、追いかけまわして自分の力を誇示したりします。エランドのナナはもうお年寄りでのんびり暮らしたいのに、ヒデヨシの動向に合わせて場所を移動をしないとならない羽目になります。まあナナにはそれが適度な運動になっているのかも?またナナは体が弱ってきていますが、頭は良く、ヒデヨシの嫌がらせを避けるのに、キリンや我々飼育係の近くに来て我々をバリアに使うというテクニックを持っています。こうなるとヒデヨシは渋々と引き下がります。

グラントシマウマ
グラントシマウマ

  シマウマはヒデヨシ以外にノリコミカという2頭の雌とミカの子供のカミリという雄がいます。ノリコはかなりお年寄りなのですが、逆にだんだんと子供に戻っていっているのか、精神的にミカに依存している感じで、夕方の収容時もミカ親子の部屋に自分も入りたがり、ミカから離れたがらないため、毎日別けるのに苦労します。ミカの方は少々、辟易(へきえき)しているようですが・・・。
 カミリは現在、生後4カ月ちょっと。まだお乳も飲んでいますが体はかなりしっかりしてきて、わんぱく盛りです。以前は怖かったダチョウとも互角に渡り合えるようになり、最近では元気があり余って意味もなく大放飼場を全速力で走りまわり、父親のヒデヨシ同様他の動物達にとってかなり迷惑な存在となっています。

 ダチョウは不思議なポジションにあり、シマウマのことは怖いくせに、そのシマウマより強いキリンのことは全く恐れてないようで、よくキリンのシッポの毛をつついて暇つぶししています。雌のハルミにはもちろん、雄のケニヤにもこれをするので「蹴られたら、どうすんねん」と、見ているこちらは冷や冷やします。しかし、不思議なことにキリンはこれを鬱陶(うっとう)しそうにはしていても、拒否することはないのです。どうしても嫌な場合は自分が移動してダチョウから離れます。「もしかして体についた寄生虫を取ってもらっているのか?」と思ったりしますが、ダチョウを見ていると遊んでるようにしか見えないし・・・
ダチョウ
ダチョウ

 こんな感じでこの広い放飼場では、毎日様々な動物関係が繰り広げられています。ぜひ観察しに来てください。

(文:油家 謙二、写真:三宅 正悟)